誤解を生んだ「サウジ1,000万バレル増産」報道

 3つのテーマの1つ、「原油」について考えます。OPEC・非OPEC閣僚会議の日、「サウジが原油生産量を日量1,000万バレルまで引き上げる」という、報道が流れ、原油相場が一時、急落しました。

 かねてから日本や米国などが要請していた追加の増産を、サウジが実現してくれる、というムードが強まったためです。しかし、その報道は、半日程度経過すると、誤解だったことが市場に伝わり、再び、原油相場は反発し始めました。

図:サウジとロシアの原油生産量の上限 

出所:OPECの資料をもとに筆者作成

 上図のとおり、12月はサウジだけではなくロシアも、「日量1,000万バレル」を生産量の上限とすることができるようになります。この「日量1,000万バレル」は、夏以降、毎月日量10万バレル強、計画的に生産量を増加させてきた延長線上にある量です。

「サウジが要求をのんだ」「1,000万バレルとは、すごい量だ」などの思惑が広がるのも分からなくはありませんが、実態としては、計画的な生産増加の流れでそうなった、という話でした。

 ある主要メディアは、計画的な生産増加による上限1,000万バレル到達を、日米などの追加増産要請に対する「ゼロ回答」としました。確かにそのとおりです。サウジは消費国の要求をのんでいません。(こうしてOPECプラスから過剰な増産がなされない点は、原油相場の高止まり・上昇要因です)

 バイデン米大統領が、G20でOPECプラスの主要産油国らに対し、「追加増産」を要請しましたが、同じ週の木曜日に「ゼロ回答」が返ってきたわけです。かえって、このことがきっかけとなってか、逆にOPECプラスは米国に対して「増産」を提案したと報じられています。

 その米国の原油生産量は以下のとおりです。昨年の新型コロナショック後、原油生産量は減少したまま、回復していません。ハリケーン襲来による短期的な減少・停滞の影響ではなく、1年以上、回復していない状況が続いています。

図:世界トップ3の原油生産量

出所:JODIのデータをもとに筆者作成

 昨年春に発生した原油相場の急落時に、複数のシェール企業が破綻し、それ以降、開発が鈍化しています。以前の「景気停滞+物価上昇、原油と金(ゴールド)は、次の大台へ向けて上昇へ!?」で述べた通り、米シェール主要地区の開発関連指標は、原油価格の反発に大きく遅れをとっています。

 米国は、温室効果ガスの削減目標を上乗せしたり、他国にさらなる削減を呼びかけたりするなど、「脱炭素」を強力に推進しています。その米国の石油開発が活発化していた場合、他国にはどう映るでしょうか。はたから見れば、自己矛盾に陥っているように見えるでしょう。

「脱炭素」を強力に推進するからこそ、増産をしない(できない)のだと、考えられます。このように考えれば、OPECプラスが米国にした「増産」の提案も、実現する可能性は低いと言えるでしょう。(この点もまた、原油相場の高止まり・上昇要因です)