日本人こそ考えたい、中国に投資をしないリスク

 この証券マンは、日本人投資家の対中投資に至ってはリターンがどれだけ見込めるか、リスクとどう向き合うかといった合理的な判断ではなく、心理的な要因がしばしば強く働くと指摘しています。

「日本の株式投資家(機関投資家ではなく、その先の個人投資家)は尖閣の件以降、この心理的な側面が全く改善されていない」

 私も全く同感です。

 今年1月、私は英ロイター通信に、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)など日本の一部の機関投資家がWGBIに中国国債が組み入れられることへ懸念を示していること、人民元に兌換性(だかんせい)がないことなど技術面の問題を懸念していることに関して取材を受けました。市場参加者の間では、原因として日本国内の対中感情を指摘する声もあると、記事ではつづっています

 私も同記事の中で「グローバルな投資家に比べると、日本では対中アレルギーがあるという印象はぬぐえない。GPIFも、中国に対する好感度が非常に低い国民の年金運用をWGBIでできるかが大きなところなのではないか」とコメントしました。

 あれから組み入れが正式決定され、実際に組み入れられた今現在に至っても、考えは変わっていません。

 同記事を引用した米ブルームバーグも、「世界最大の年金基金であるGPIFは、中国国債の運用を巡り、政治的配慮とリターン向上との間で難しい選択を迫られる…日中関係の緊張を踏まえると、国内の年金資金を中国国債に投資することはGPIFにとって政治的に理解を得がたい選択となる公算が大きい」と指摘しています。

 海外メディアの予測を立証するかのように、GPIFは中国の人民元建て国債への投資を見送ることを決定しました(人民元建て以外の中国国債への投資は継続)。

 私はこの決定にいかなる評価やコメントを下す立場にありませんが、日本人が中国市場とどう付き合うか、というテーマからすれば、典型的かつ重要なケーススタディーになると思っています。

 GPIFは氷山の一角です。

 私が日ごろから議論している日本の機関投資家も、中国国債の高い利回りは魅力的、そこに「投資をしないリスク」もあると正視しつつも、流動性や決済システム、そしてカントリーリスクや地政学リスクなどを総合的に判断すると、やはり「投資をするリスク」に傾いてしまうと語る方が多いのです。

 また、「中国に投資をしないリスク」を直視する機関投資家たちも、「社内には中国嫌いな人間がたくさんいて、投資になかなか理解が得られない」と消極的になり、決断できないジレンマに陥っているケースが目立ちます。

 ここにも「信用できない」という心理的要因が作用しています。

 じゃあ、なぜ中国を信用できないのか。そこにはやはり、前出の証券マンが指摘するように、尖閣問題を含めた日中関係が絡んでくるのでしょう。日本人の対中投資は独自のジレンマを抱えているといえます。

 とはいうものの、本稿で述べてきたように、中国国債がWGBIに組み入れられた事実は、まぎれもなく中国金融市場の信用力を上げるものであって、その逆ではあり得ません。それがグローバルスタンダードな評価だと私は思います。

 今後、心理的要因を抱えつつも、合理的動機を正視し、「中国に投資しないリスク」を直視する必要性が高まっていくことだけは確かだといえます。

 日本人投資家も例外ではない。

 というより、日本人投資家こそ肝に銘じるべきだと確信しています。