WGBI組み入れは中国金融市場の一層の開放に寄与するか?

 本件を取り扱う主管機関である中国人民銀行は、どのように現状と展望を捉えているのか見てみましょう。

 常々指摘していることですが、中国経済や市場の動向を占う上では、当局の公式見解を的確に理解することが非常に重要だと私は考えています。欧米日を含めた先進国よりも、政策が直接的に市場へ反映される傾向が強いからです。

 中国国債がWGBIに組み入れられた当日、同行は声明を発表し、「歓迎」を示しています。前出の新華社は中国人民銀行の声明文を引用したのでしょう。「海外投資家の中国経済、金融開放への評価」「3.9兆元」「金融開放は高質量の経済成長、および海外投資家が中国経済の発展の果実を享受することに有利」といった点を指摘した上で、次のように結んでいます。

「次のステップだが、当行は引き続き各方面と共同で努力をし、各種政策や制度を積極的に改善、充実させることで、国内と海外、双方向の投融資チャネルを強固に拡大することで、国内外の投資家にとってより友好的、便宜的な投資環境を提供していきたいと考えている」

 声明文の中で、この部分が最も重要だと解釈しました。私はかねてより、中国に最も欠けているのは「信用」で、そこを獲得できれば、中国経済、市場の信用力(クレディビリティー)は格段に上がる、そうすれば、海外投資家の対中投資も劇的に伸びると主張してきました。

 この意味で、今回、中国国債がWGBIに組み込まれた事実は、疑いなく「中国国債、債券市場の信用力を上げる=海外投資家の対中投資拡大につながる」動きだといえます。

 実際に、一連の“規制ラッシュ”で先行きが不安視される中国市場ですが、物議を醸してきた習近平(シー・ジンピン)政権発足(2012年11月)以降、金融市場の開放は着実に進められています。その典型がまさに、中国人民銀行の声明文にある「国内外投資家にとってより便宜的な投資環境」です。

 2014年11月、上海・香港ストックコネクトが導入されました。これによって、それまでQFII(適格外国機関投資家)に限られていた上海市場への投資が、香港経由で海外の個人投資家にも可能になり、中国本土の投資家は香港市場への投資が上海経由で可能になりました。

 続いて2017年7月、中国本土と香港間の債券相互取引制度「債券通(ボンドコネクト)」を導入。香港から中国本土への取引「北向通」が先行開始され、海外の機関投資家が香港の決済システムを使い、中国本土の債券市場でも投資ができるようになりました。

 しかも、投資額に上限はなく、中国本土に口座がなくても、香港の金融機関に口座があれば投資が可能です。

 そして、2021年9月24日、中国本土の投資家による香港市場での取引「南向通」も正式に開始されました。中国人民銀行が発表した情報によると、「南向通」の初の営業日の債券取引件数は150件余りで、取引高は約40億元(約710億円)だったとのことです。

 中国人民銀行や官製メディアが主張するように、中国金融市場が対外的に開放される趨勢(すうせい)が描かれているのは事実といえ、今回の中国国債のWGBI組み入れもその一環だという解釈は間違っていないでしょう。

 私が信頼する香港在住の外国人証券マンと、本件について話をしました。

 彼は「間違いなくいい話」と断定した上で、「積極的な投資家は既に徐々に入ってきている。一方、保守的で慎重な投資家はまだ入っていない。本件を経て、少なくとも、今入っていない投資家に対し、比較的強く背中を押す効果はある」と指摘しました。参加者が増えれば市場の厚みが増し、かつ安定的に推移することができれば、中国が最も必要としている信用の獲得につながるという一点で合意しました。