運用にも過剰な「ストーリー」

 よく考えてみると、資産の運用の目指すところは、運用資産のより有利な拡大の一点だ。「老後への備え」や「インフレ・リスクへの対応」といった問題を運用に関係させる必要は、実はない。

「最も有利な運用」がはっきりしていれば、誰でもそれを選ぶだけのことだ。それで「老後」や「インフレ」に対して足りないのであれば、収入を増やす努力をするなり、現在の生活を切り詰めてより多く運用するなりするしかない。

 しかし、運用商品を提供する側は、金融資産の運用にも「ストーリー」を絡めることを狙っているようだ。

 具体的な金融機関名は差し控えるが、金融機関の店頭にあるポスターを見ると「相談しよう」と呼びかけるようなものが多い。相談で想定しているものは、退職金の運用であったり、老後への資産形成であったりするようだが、「相談」は、商品の売り手側にとっては、顧客の情報収集のチャンスであり、商品・サービスをセールする場となる。無料だからといって、安易に近づかない方がいい。

 金融の世界では、米国で流行ったものが遅れて日本で流行ることが多い。現在、彼の国では、「ゴールベースド・アプローチ」という顧客の人生の目的(ゴール)を聞き出して、その実現のために、資産運用サービスを提供する(器としては「ラップ口座」が多いようだ)営業手法が普及しているようだ。

「顧客の人生に伴走する」というような表現が使われるようだが、はっきり言って、相手が、銀行員であれ、証券マンであれ、生保レディであれ、金融商品の売り手に人生相談を持ちかけるのは愚かなことであり、「金融マンにつきまとわれる人生など気持ち悪い」という感性をもつべきだ。

「相談の相手」と「商品購入の相手」とを分離することは、賢い消費者であるための基本中の基本だ。