中国経済に襲い掛かる足元の不安材料。恒大ショックの現在地は?

 とはいえ、足元の景気は不安材料で満ちていると言わざるを得ません。

 私自身、付報道官の記者とのやり取りを眺めながら、当局としても「自信満々」ではないのだなと実感しました。逆に言えば、「こうなること」をある程度予測していたからこそ、2021年の経済成長率目標を、かなり低めの「6.0%以上」に設定したのだと言えます。

 中国共産党は、行動は大胆、時に攻撃的ですが、目標設定は往々にして極めて綿密に行い、保守的なのです。仮にそれが達成できなければ、民主選挙で成立しているわけではない中国共産党の正統性が揺らいでしまうからです。結果と実績によってのみ有権者からの信任を得なくてはならないのです。

 9月のPPI(生産者物価指数)が10.7%増と近年まれに見る高い数値を記録したことについて、付報道官は、国際的な原材料、エネルギー価格の高騰、国内需要の拡大、供給不足といった影響を受けていること、それが今しばらく続く見込みであることを指摘しています。

 これらの背景によって生じる企業収益の悪化は、消費や雇用を含め、中国経済にとってのリスクと言えるでしょう。9月の卸売物価指数は前年同月比10.7%と最大の上昇率を記録、小売売上高は7-9月期に前期比0.5%増で、1.3%伸びた4-6月期から鈍っています。

 中央政府は国家戦略として掲げる環境政策の観点から、地方政府、企業などに対し、大気汚染の原因となる化石燃料の生産や供給を制限するように要求しています。

 国際的にエネルギー価格が高騰している事情もありますが、石炭の供給不足が昨今の電力不足を招いているのは論をまちません。足元の経済成長と持続的な発展を実現するための環境政策の間で、微妙なかじ取りが求められる局面は続くでしょう。

 恒大ショックは引き続き中国経済成長のけん引役を担ってきた不動産市場を震撼(しんかん)させています。

 当局による同市場への規制強化で建設活動が抑制され、業界向けの資金供給も圧迫、不動産の販売不振も招いています。加えて、住宅ローンの総量規制も重なり、9月単月の新築住宅の販売総額は前年同月より2割近く落ち込み、3カ月連続で減少しています。

 注目される恒大ショックの現在地について、当局の最新の見解を元に整理してみます。

 10月15日、中国人民銀行(中央銀行)が記者会見を開き、恒大集団の経営や債務問題を批判しつつも、「恒大集団の総負債のうち、金融負債は3分の1に満たない。債権者も比較的拡散して、個別の金融機関に掛かるリスクも大きくない。全体的に見れば、そのリスクが金融業界に与える影響は制御可能だ」としつつ、関連部門や地方政府が指導する形で、恒大集団に資産処置の強度を高め、不動産建設の回復を加速させ、消費者の合法的な権利と利益を守るよう促していること、その過程で、金融機構は同集団の管轄部門である住宅建設部や地方政府に協力し、建設再開に必要な金融的支持を行うことを明らかにしています。「恒大集団の問題は不動産業界では個別の案件だ」とし、国内不動産市場をめぐる地価、住宅価格、市場予想は安定していて、大多数の企業経営は穏健、財務指標も良好だと指摘しています。不動産市場の動向が景気の足かせになるリスクは限定的だという当局の立場を表していると言えます。