中国経済が岐路に立っているように見えます。第3四半期GDP(国内総生産)成長率は4.9%増と、第1四半期の18.3%増、第2四半期の7.9%増からあからさまに減速。新型コロナウイルスの感染再拡大、自然災害、電力不足、原材料高、そして恒大ショックなどが複合的に作用した結果だと言えます。中国政府は現状を乗り越えるだけの手立てと余力を残しているのか。今回解説していきます。

中国経済成長率が4.9%増に減速。国家統計局の見解は?

 10月18日、中国国家統計局が7-9月期(第3四半期)のGDP成長率を4.9%増と発表しました。例として、日本経済新聞社が調べた市場予想の平均は5.0%増、ブルームバーグ社が調査したエコノミストの予想中央値も5.0%増だったことから、市場や専門家の予測をわずかに下回ったことになります。また、季節要因をならした前期比での伸び率は0.2%増と、4-6月期の1.2%から落ち込んでいます。

 同日、記者会見に臨んだ付凌暉(フー・リンフイ)統計局報道官は、数字の背景について次のように語っています。

「今年の上半期、我が国の経済は安定的回復の態勢を保持した。第3四半期に入って以降、国内外のリスクや挑戦が増え、新型コロナが世界規模で拡散、まん延した。世界経済回復の勢いが鈍化し、国際コモディティー価格は高位で運行している。国内の一部地域は感染症や災害といった複数のショックに見舞われた。また、経済転換の調整圧力も出現した」

 付報道官は、それでも「我々はマクロ政策を有効に実施し、国民経済は回復の態勢を保持した。主要なマクロ指標は合理的な区域にとどまっていて、雇用も基本的に安定している」と指摘。また、1~9月の間に都市部で新たに創出された雇用の数は1,045万人で、全年目標の95%を達成、都市部における調査失業率は5.2%で、全年予想・目標の5.5%前後よりも低い、9月末における外貨準備高は3.2兆ドルと5カ月連続で3兆ドル以上を保持した、といった数字を挙げながら経済は基本的に安定していると指摘しました。

 付報道官は、第3四半期は4.9%増と落ち込んだけれども、1~9月までの成長率は9.8%増であり、「今年の予測目標である6%増以上よりも高い」と主張。

 第4四半期の成長率が注目されますが、5%増だと通年で8.6%増、4%増だと8.4%増、3%増だと8.1%増の計算になりますから、これから冬にかけて電力不足が劇的に深刻化する、新型コロナ感染が一気に再拡大する、災害がさみだれ式に起こる、中国と欧米との関係が歴史的に悪化し、国際的に孤立するといった局面に陥らない限り、2021年全体で、8.0%前後の成長は十分見込めるということなのでしょう。

 IMF(国際通貨基金)は先日、今年の中国経済成長率を0.1ポイント下方修正し、8.0%増と予測しています。

中国経済に襲い掛かる足元の不安材料。恒大ショックの現在地は?

 とはいえ、足元の景気は不安材料で満ちていると言わざるを得ません。

 私自身、付報道官の記者とのやり取りを眺めながら、当局としても「自信満々」ではないのだなと実感しました。逆に言えば、「こうなること」をある程度予測していたからこそ、2021年の経済成長率目標を、かなり低めの「6.0%以上」に設定したのだと言えます。

 中国共産党は、行動は大胆、時に攻撃的ですが、目標設定は往々にして極めて綿密に行い、保守的なのです。仮にそれが達成できなければ、民主選挙で成立しているわけではない中国共産党の正統性が揺らいでしまうからです。結果と実績によってのみ有権者からの信任を得なくてはならないのです。

 9月のPPI(生産者物価指数)が10.7%増と近年まれに見る高い数値を記録したことについて、付報道官は、国際的な原材料、エネルギー価格の高騰、国内需要の拡大、供給不足といった影響を受けていること、それが今しばらく続く見込みであることを指摘しています。

 これらの背景によって生じる企業収益の悪化は、消費や雇用を含め、中国経済にとってのリスクと言えるでしょう。9月の卸売物価指数は前年同月比10.7%と最大の上昇率を記録、小売売上高は7-9月期に前期比0.5%増で、1.3%伸びた4-6月期から鈍っています。

 中央政府は国家戦略として掲げる環境政策の観点から、地方政府、企業などに対し、大気汚染の原因となる化石燃料の生産や供給を制限するように要求しています。

 国際的にエネルギー価格が高騰している事情もありますが、石炭の供給不足が昨今の電力不足を招いているのは論をまちません。足元の経済成長と持続的な発展を実現するための環境政策の間で、微妙なかじ取りが求められる局面は続くでしょう。

 恒大ショックは引き続き中国経済成長のけん引役を担ってきた不動産市場を震撼(しんかん)させています。

 当局による同市場への規制強化で建設活動が抑制され、業界向けの資金供給も圧迫、不動産の販売不振も招いています。加えて、住宅ローンの総量規制も重なり、9月単月の新築住宅の販売総額は前年同月より2割近く落ち込み、3カ月連続で減少しています。

 注目される恒大ショックの現在地について、当局の最新の見解を元に整理してみます。

 10月15日、中国人民銀行(中央銀行)が記者会見を開き、恒大集団の経営や債務問題を批判しつつも、「恒大集団の総負債のうち、金融負債は3分の1に満たない。債権者も比較的拡散して、個別の金融機関に掛かるリスクも大きくない。全体的に見れば、そのリスクが金融業界に与える影響は制御可能だ」としつつ、関連部門や地方政府が指導する形で、恒大集団に資産処置の強度を高め、不動産建設の回復を加速させ、消費者の合法的な権利と利益を守るよう促していること、その過程で、金融機構は同集団の管轄部門である住宅建設部や地方政府に協力し、建設再開に必要な金融的支持を行うことを明らかにしています。「恒大集団の問題は不動産業界では個別の案件だ」とし、国内不動産市場をめぐる地価、住宅価格、市場予想は安定していて、大多数の企業経営は穏健、財務指標も良好だと指摘しています。不動産市場の動向が景気の足かせになるリスクは限定的だという当局の立場を表していると言えます。

中国政府は現状打破のための政策的ツールと余力を残しているか?

 18日の会見で、英ロイター社の記者が「第4四半期や2022年の経済をどう展望するか? 政府は経済の一層の低迷に対応するだけの政策的余力を残しているか? FRB(米連邦準備制度理事会)による政策的調整がもたらし得る影響にどう対応するか?」という質問を付報道官に投げかけました。「FRBによる政策的調整」が、来月実行される見込みのテーパリング(資産買入の縮小)を指しているのは明らかです。

 付報道官は次のように回答しました。

「政府は、長期的な実践の中で豊富なマクロコントロールの経験を蓄積してきた…目下、我が国の財政力は不断に増強され、通貨政策にも依然比較的大きな余力がある。情勢の変化に基づいて適宜有力な措置を取ることで、経済の安定的運行を促進することができるだろう。例えば、主要国が打ち出す通貨政策の調整に対しても、我が国の金融管理部門はすでに、事前に政策的な手配をすることで、先進国の政策調整がもたらし得るショックを軽減してきた」

 中国共産党の政策研究をなりわいとする私から見ても、非常に重要なステートメント(立場声明)だと解釈しました。

 結論から言えば、中国政府は、あらゆる不安要素が顕在化する事態をある程度事前に予測し、李克強(リー・カーチャン)首相が今年の全人代で公言したように、2021年全体の経済成長目標を意図的に低めに設定しました。実際に、本稿で検証してきたように、目下、中国経済情勢は、新型コロナ、電力不足、恒大ショック、自然災害、素材高、欧米におけるインフレ懸念やテーパリングなどさまざまな潜在的リスク、構造的問題に見舞われています。

 これらは中国共産党指導部にとっては想定内であり、それらに対応するために、積極的な財政出動、および穏健かつ柔軟な金融政策を適宜発動する用意があると言っているのです。実際に、当局は柔軟かつ大胆に対応、行動していくでしょう。

 私から見て、より重要なのは、習近平(シー・ジンピン)総書記が2049年に向けた国家戦略・目標として掲げる「共同富裕」を実現するために打ち出す一連の政策であり、それらがもたらし得るチャンスとリスクをどう分析し、対応していくかにほかなりません。

 そして最近、「共同富裕」をめぐって、またおもしろい動向が出てきました。近々、本連載でも扱いたいと思います。