物価連動国債

 但し、今後、インフレ率が上昇する中、長期金利が(日銀の買い入れなどで)インフレ率よりも低位に抑えられるような「金融抑圧」的な環境が続くと、実質利回りが継続的にマイナスになる可能性はある。

 経済的な理屈を考えると、長期金利を長期間実質マイナスの状態に置くことはかなり難しいが、現在がそうであるように全くあり得ない訳でもない。

 この場合、一つの選択肢として考えられるのは、2015年から個人も買えるようになる物価連動国債だ。

 物価連動国債では、元本額とクーポンの両方が消費者物価指数に連動するので、将来のインフレ変動をヘッジした実質利回りを概ね固定することができる。また、物価変動がマイナスの場合、償還額が元本割れしないようにフロアが付いた設計になっている。投資した時の価格が100を超えている場合に、売却損が出る場合があるが、幾らか安心だ。

 しかし、たとえば2014年10月8日に財務省が発表した物価連動国債の応札結果を見ると、10年物価連動国債は表面利率が0.10%で、最低落札価格が108円05銭(最高落札利回りはマイナス0.6580%)と、結構なマイナス利回りになっていた。実質マイナスの利回りでも、インフレ・リスクをヘッジしたいと思うかどうかは投資家の判断の問題だが、筆者は、魅力的な運用対象だとは思わない。

 もちろん、運用資産のインフレ・リスクを目に見える形でヘッジしたいという方にはいい運用対象になる可能性がある。但し、これに資産全額を投じる人は少ないだろうし、部分的な購入では、資産額全体をインフレのリスクからヘッジしたことにならないので、実質マイナスの利回りを甘受するほどに魅力的だとは思えない。

 もちろん、個人が買えるようになってからどんな利回りになるか、その都度注意する必要はありそうだ。満足できる利回り水準でインフレ・リスクをヘッジできる局面があれば、物価連動国債での運用は有力な選択肢になり得る。

公的年金運用とインフレ

 厚生年金や国民年金、あるいは公務員が加入する共済年金では、将来の賃金上昇率を意識して運用目標を考えることが一般的だ。年金財政の計算上、年金保険料は賃金に連動して変化するし、年金給付も概ね賃金水準に連動すると考えることが出来る。ここで、年金積立金も賃金上昇率に負けないように運用できれば、年金財政全体を通じて賃金変動のリスクを吸収できる。

 インフレ率と賃金上昇率は、相当程度連動するはずだが、どちらが高いと考えるべきだろうか。

 近年、物価の下落以上に、勤労者の所得が減少してきたので、リアリティを感じないかも知れないが、技術進歩などによる生産性の改善があって、労働分配率が低下しなければ、実質賃金上昇率、すなわち名目賃金上昇率からインフレ率を引いた値はプラスになることが期待される。

 賃金上昇率に追随できる運用が出来るなら、主に老後の生活に備えた個人の資産運用にあっても概ね問題ないと考えて良さそうだ。公的年金の運用方法で、個人の資産運用の参考になる点はないか。

 公的年金の運用計画では、日本経済全体の付加価値の変動に関して、(1)長期金利は物価変動を吸収した実質金利を長期的には確保するだろう、(2)生産性の向上分は労働力と資本へ、つまり賃金と株式に配分されるはずだ、という考慮に基づいて、国債を中心とする債券ポートフォリオに運用資産の大きな部分を配分し、これに株式の保有を付け加えるポートフォリオを基本としてきた。

 株式をどの程度持つのがいいのかについては、GPIF(公的年金)、国家公務員共済、地方公務員共済など、性質が似た資金の運用にあっても基本ポートフォリオに大きな違いがあったように、共通に納得できるような決め方がある訳ではない。

 それぞれの資金に主としてリスクに対する考え方の差があったが、これまで、「国内株式」と「外国株式」を8%〜12%程度ずつ(理論的根拠はないが国内株を外国株よりも多く持つ条件で計算することが多かった)持ち、資金によっては、外国債券を数%持つ、といった資産配分構成で、「賃金上昇率+αの運用が出来る」としてきた。

 尚、国家公務員共済組合連合会(通称「KKR」)が外国債券を基本ポートフォリオに含めなかったのは、(1)外国債券が10%程度のリスク(年率リターンの標準偏差で)を持つにも関わらず期待リターンが国内債券よりも高いと言えないこと、(2)外国債券が良いパフォーマンスを上げる円安時には外国株式はもちろん、国内株式もパフォーマンスが上がりやすい相関性があるので、内外の株式を持っていれば外国債券は不要だとの判断があったからだ(筆者は妥当な判断だと思う)。