執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 北朝鮮リスク・円高不安を背景に日経平均の下落が続いている。
  • 米軍が「北朝鮮がレッドラインを越えた」と判断して北朝鮮を先制攻撃しても、金正恩政権を崩壊させることができず、事態が泥沼化する可能性もある。
  • 米国と北朝鮮が挑発を繰り返すだけで有事に至らないまま、不透明な状況が長期化する可能性もある。

(1) 北朝鮮リスクと円高不安から、日経平均は一段安に

先週の日経平均は、1週間で329円下がり、18,335円となりました。①北朝鮮が核実験とミサイル発射を繰り返し、「日本と韓国の米軍基地がターゲット」と表明していること、②米軍がシリア・アフガニスタンにミサイル攻撃を実施し、さらに朝鮮半島近海に空母を急派したことから、東アジアの地政学リスクが一触即発と解釈され、巻き添えを食う可能性のある日本や韓国の株が売られました。

日経平均日足:2016年11月14日―2017年4月14日

(注:楽天証券マーケットスピードより作成)

4月15日(土)に北朝鮮で故金日成国家主席の生誕記念セレモニーがありましたが、北朝鮮は国家セレモニーにあわせて、軍事的な示威行動に出ることが多いので、15日が北朝鮮のXデ-になる可能性が語られていました。

結果から言うと、北朝鮮は、15日(土)は軍事的なアクションを起こしませんでした。16日(日)早朝にミサイルを発射しました。このミサイルは直後に爆発し、ミサイル発射は失敗に終わりました。米軍は、ミサイル発射が失敗に終わったことから、アクションを起こさず、事態を静観しています。

東アジアの地政学リスクの高まりを受けて、「リスク・オフの円買い」が進んだことも、日本株が売られる要因となりました。先週、一時、1ドル108円台へ円高が進み、日本の企業業績の回復に水を差すことが懸念されました。

トランプ大統領が、4月12日に米ウォールストリートジャーナル紙のインタビューに答えて、「ドルは強すぎる」「低金利が望ましい」と、ドル高(円安)牽制発言をおこなったことも、円高が加速する要因となりました。

(2)韓国KOSPIは、日経平均ほどは値下がりしていない

日経平均と韓国株価指数(KOSPI)の動き比較:2017年2月28日―4月14日

(注:2017年2月末の値を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

先週は、北朝鮮リスクの高まりを受けて、日本株も韓国株も売られました。ただし、3月以降の動きを比較すると、日経平均が下落しているのに対し、韓国KOSPIは堅調な値動きとなっています。北朝鮮リスクは、隣り合わせの韓国の方が大きいと考えられますが、株価の動きを見ると、日本株の方が大きなダメージを受けています。

韓国株が底堅いのは、韓国の通貨ウォンが下落したためと考えられます。通貨の下落によって韓国経済がメリットを受けることが意識されています。一方、日本の通貨「円」は、リスク・オフの円買いで上昇しているため、日経平均は下落しています。

日本株と韓国株の動きの差には、北朝鮮リスクよりも、為替変動の影響が大きく出ていると考えられます。

(3)朝鮮半島有事リスクは、今後どうなるか?

3つのシナリオを考えています。

何も起こらない→不透明な状況が長期化

トランプ米大統領は、「中国が北朝鮮問題を解決しないならば、我々がやる」と、北朝鮮を先制攻撃する可能性に言及しています。

ただし、米軍から先制攻撃するには、リスクもあります。先制攻撃によって、北朝鮮の戦闘能力を壊滅するか、あるいは、金正恩政権を崩壊させられれば成功だが、そうでないと、北朝鮮から反撃され、事態が泥沼化する可能性もあります。

一方、北朝鮮も、米軍基地に向けて先にミサイルを発射し、米軍と全面戦争に入っても勝算はないので、挑発を繰り返すだけの可能性もあります。

結果的に、米国も北朝鮮もいつまでも挑発を繰り返すだけで動かず、朝鮮半島有事に至らないまま、不透明な状況が長期化する可能性もあります。

米軍攻撃→泥沼化

北朝鮮がレッドラインを越えたと判断し、米軍が北朝鮮を先制攻撃しても、金正恩政権を崩壊させることはできず、そのまま、事態が泥沼化する可能性もあります。

米軍攻撃→短期終息

北朝鮮がレッドラインを越えたと判断し、米軍が北朝鮮を先制攻撃した場合に、戦闘が短期で終息し、金正恩政権が崩壊する可能性も、ないとは言えません。

他にも、いろいろな可能性がありますが、現時点では、上の3シナリオを想定しています。①の可能性がもっとも高いと考えています。その場合、当面、北朝鮮情勢が、株価の上値を抑える状況が続きますが、すぐに有事には至らないとわかれば、いずれ相場はあく抜けしていくと考えられます。

ブレグジット(英国のEU離脱)に対する、金融市場の恐怖は、昨年の6月が最大でした。英国は、既にEU離脱を正式にEUに通告し、離脱の条件交渉に入っています。離脱交渉には最低でも2年かかります。

ブレグジットは今、世界の株式市場にとって、気になる悪材料の1つには違いませんが、すぐに、世界の株式市場を崩壊させるような材料とは考えられていません。世界の株式市場は、ブレグジットを冷静に受け止められるようになりました。

北朝鮮情勢も、今、恐怖感が最大となっていますが、仮に有事に至らずに、不透明な状況が長期化する場合、どこかで、株式市場は「北朝鮮情勢離れ」すると考えられます。ただ、韓国や日本も巻き添えとなる有事への恐怖がすぐに払拭されるとは、考えられません。