約33兆円という負債を抱える不動産大手・中国恒大集団(チャイナ・エバーグラン・グループ)のデフォルト(債務不履行)危機が続いています。期限の迫る社債への利払いができるのか。全国に広がる抗議活動は収まるのか。不動産市場や中国経済への影響はどうなるのか。

 前回レポートの続編として今回は、急成長を遂げてきた中国恒大集団が、習近平(シー・ジンピン)政権の“餌食”になることが避けられない理由を、同政権が掲げる政策目標5つのポイントから解説していきます。

餌食になる理由1:債務超過問題の解決

 毎年末に開かれ、翌年の経済政策を定める重要な会議である中央経済工作会議で2015年12月、2016年に向けて、次の「5大任務」が発表されました。

(1)過剰生産能力の削減
(2)過剰在庫の削減
(3)脱・レバレッジ
(4)コストの引き下げ
(5)脆弱(ぜいじゃく)部分の補強

 この5点は、主に第13次五カ年計画(2016~2020年)の経済政策目標として掲げられましたが、第14次五カ年計画(2021~2025年)に当たる現在に至っても明確に受け継がれているのが(2)(3)(4)です。

「(2)過剰在庫の削減」は後述する「理由3:不動産バブルの解消」にも関わる不動産市場の項目ですが、第13次五カ年計画の当時は「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンが全国各地に出現し、住宅の供給過多が懸念されていました。

「(4)コストの引き下げ」は主に、中小・零細企業が資金難や経営難から逃れるための、ミクロレベルの規制緩和という様相を呈しています。

 そして、私が見る限り、昨今に至るまで中国当局が最も警戒しているのが、「(3)脱・レバレッジ」です。

 シャドーバンキング(影の銀行)を通じた融資の急拡大などによる債務超過を緩和することは、中国経済の健全な発展、金融システムの安定にとって極めて重要である、そのために高すぎるレバレッジ率は大いに警戒し、対処しなければならないというのが当局の立場です。

 中国恒大集団はまさに債務超過でデフォルト危機にあり、かつそれが中国経済や金融システム全体に影響を与え、リスク化しているわけですから、習政権として全力を挙げて対処しなければならない問題のど真ん中にあると言えます。

餌食になる理由2:金融システムリスクの防止と解消

 次の舞台は2017年11月に開催された第19回共産党大会。中国で最も重要な政治会議です。

 ここで報告を行った習総書記は、政策目標である「3大堅塁攻略戦」(中国語で「3大攻堅戦」)を掲げました。現在に至るまで優先的に掲げられている目標ですが、端的に言えば、(1)金融市場における重大リスクの防止と解消、(2)貧困撲滅、(3)環境汚染の改善の3つです。

 あれから約4年が経ち、2022年の秋には第20回党大会が開催されようとしていますが、現時点で、「(2)貧困撲滅」はすでに明白な成果を挙げており、当局の発表によれば、2020年末の時点で貧困撲滅の戦いは決定的な勝利を得たとのこと。「(3)環境汚染の改善」も一筋縄にはいきませんが、中国全土における大気汚染は、以前に比べて改善しているのを実生活でも実感できるようになっています。

 そして、「(1)金融市場における重大リスクの防止と解消」ですが、「理由1:債務超過問題の解決」で解説した債務超過問題も重なり、なかなか成果が上がりません。

 今回の「恒大ショック」も、「金融システムを揺るがすほどの威力を持つ可能性」を当局や市場関係者は警戒しているわけで、習政権として全力で対処していく問題であることが「理由2:金融システムリスクの防止と解消」からも見て取れるわけです。

 9月27日、中国人民銀行(中央銀行)通貨政策委員会が第3四半期の例会を開催しましたが、その中で「不動産市場の健康的な発展を守り、住宅消費者の合法的な権利と利益を守る。金融のハイレベル、双方向の開放を推進し、開放の条件を高める中で、経済金融の管理能力やリスク防止・制御能力を高めていく」と指摘。恒大ショックに象徴される不動産市場をめぐる動向が、金融システムの安定性に確かな影響を及ぼすと明示していることが分かります。