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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「中国GDP鈍化、デフレと不動産不況続く。それでも大規模な景気刺激策に慎重な理由」
中国7~9月GDP実質成長率は4.6%増で伸び率鈍化
中国国家統計局が10月18日、7~9月期のGDP(国内総生産)実質成長率を前年同期比4.6%増と発表しました。一方、国営新華社通信を含めた官製メディアらは、1~9月の「4.8%増」を前面に出して報じていました。以下の表に見られるように、7~9月の四半期よりも、1~9月の3四半期のほうが、数値が高いからでしょう。
月期 | GDP実質成長率 |
---|---|
1~3月 | 5.3% |
4~6月 | 4.7% |
7~9月 | 4.6% |
1~9月 | 4.8% |
中国国家統計局の発表を基に楽天証券経済研究所作成。前年同期比。 |
同日、記者会見を開いた国家統計局の盛来運副局長は、「今年に入って以来、国内外の環境は複雑で多変的であり、外部環境も混乱、錯綜(さくそう)している。リスクや課題も増えており、国内経済は現在構造転換にとっての肝心な段階にある。周期的矛盾や構造的矛盾も相互に交錯している。調整の痛みが放出されている」と述べ、「経済運営に新たな状況や問題が出ている」と付け加えました。
その上で、国家統計局としての見通しは以下とのこと。
「9月のマクロ経済運営には前向きな変化が見られる。景気が底打ちし、安定化へと向かう態勢が見て取れる。もちろん、我々は明確に認識しなければならない。これらの変化は初歩的なものであり、経済回復の基礎は依然として強固ではない」
文字通り、景気回復への道のりは長い、というのが中国政府の公式見解なのでしょう。国慶節休暇前のレポートで扱ったように、中国政府は9月下旬に「小バズーカ」と言える程度の景気支援策を打ち出し、何とか経済の好循環を促そうと躍起になってはいますが、一筋縄にはいかないのでしょう。盛氏は、9月のマクロ経済運営に前向きな変化が生じている経緯や、中央政府が打ち出した一連の景気支援策の効果などを根拠に、「経済が安定化し、改善するための有利な条件は増えている。5%前後という経済成長率の年間目標を達成する上での自信は現在増強している」と語っています。
第4四半期には、開催まで残り1カ月を切った米国の大統領選挙など、中国政府が懸念する「外部要因から受けるショック」という意味でも不確定要素があり、習近平(シー・ジンピン)国家主席率いる共産党指導部が内憂外患の苦境にどう対応していくのか、注視していきたいと思います。
主要経済統計も軒並み悪化。不動産不況とデフレ基調にも改善は見られず
この日に発表された、他の経済統計結果も見ていきましょう。
1~9月 | 1~6月 | 1~3月 | |
---|---|---|---|
工業生産 | 5.8% | 6.0% | 6.1% |
小売売上 | 3.3% | 3.7% | 4.7% |
固定資産 投資 |
3.4% | 3.9% | 4.5% |
不動産 開発投資 |
▲10.1% | ▲10.1% | ▲9.5% |
貿易 (輸出/輸入) |
5.3% (6.2%/4.1%) |
6.1% (6.9%/5.2%) |
5.0% (4.9%/5.0%) |
失業率 (調査ベース、農村部除く) |
5.1% | 5.1% | 5.2% |
消費者 物価指数 |
0.3% | 0.1% | 0% |
生産者 物価指数 |
▲2.0% | ▲2.1% | ▲2.7% |
中国国家統計局の発表を基に楽天証券経済研究所作成。前年同期比。▲はマイナス |
1~3月、1~6月、1~9月の数値を比較しながら羅列してみましたが、主要な数値である工業生産、小売売上、固定資産投資の三つにおいて、1~9月の数値が最も悪くなっている経緯が見て取れます。
1~9月の不動産開発投資は1~6月と比べて横ばいですが、不況からの改善は見られません。中国政府が毎月発表している、主要70都市の住宅価格によれば、前年同月比で価格が上昇したのが、新築で上海市と西安市の二都市(前月比では上海市、南京市、徐州市の三都市)、中古では前年同月比、前月比含めてゼロというのが足元の状況です。
国慶節休暇前に、中央政府と地方政府が連携する形で打ち出された一連の不動産支援策を受けて、10月の数値がどうなるかに注目したいと思いますが、視界良好とはいえない状況です。
中国経済にとってもう一つの懸念事項がデフレです。1~9月のCPI(消費者物価指数)は0.3%。直近でいうと、8月は0.6%だったのが、9月は0.4%に下落しています。統計局は8月に上昇した食品価格などが下がったことが原因だと説明していますが、マイナス成長が続くPPI(生産者物価指数)を含め、デフレ基調から脱却したとは言えない状況です。
国家統計局が9月30日に発表した9月のPMI(製造業購買担当者景気指数)も、製造業、サービス業共に、景況拡大と縮小の分かれ目となる50を下回り、景気回復に向けての不安要素はまだまだ解消されていないというのが現状ではないかと思われます。
中国政府が「大規模な景気刺激策」に慎重な理由
このように見てくると、国内外の市場関係者が期待するのは当然、いわゆる「大規模な景気刺激策」でしょう。公平を期すという観点からも、この議論を始める前提として、2点指摘させていただきます。
一つ目が、中国政府も景気刺激・支援策を実施していないわけではないということ。9月24日に実施した金融緩和、不動産支援、株式市場支援を含め、小規模なのかもしれませんが、小刻みなマクロコントロールを打ち出してはいます。中国政府は引き続き、財政出動、金融緩和、不動産や株式市場の支援を通じて、景気回復に向けて動いてくものと思われます。
二つ目が、問題は、中国政府が景気回復に向けて現状を「放置」しているわけではなく、できることはやっているのに、景気がなかなか回復してこないということ。私自身は、やれることをやっているのに状況が改善しないからこそ、問題はより深刻に映るのだと思っています。
この二つの背景を前提に、中国政府がこれから、我々が期待するような「大規模な景気刺激策」を一気に打ち出すのか否か。私はその可能性を否定するわけではありません。国慶節休暇後、中国政府が最大2兆元(約42兆円)規模の新たな財政刺激策を打ち出す可能性を指摘する市場関係者もいます。中国政府は少なくともそういう政策ツールを選択肢として持っているでしょう。
一方、中国政府は慎重姿勢を崩していないともみています。私が信頼する中国経済運営の当事者の一人が最近、「中国経済にとっての最大の問題は過剰生産だ」と断言していました。過剰生産問題が解消されない中、モノが売れず、需要が不足し、多くの企業は市場を海外に求めざるを得ない、という指摘です。欧州などで外交問題化している電気自動車の分野なんかはその典型例でしょう。
では、過剰生産という問題はどうして生まれたのか。時をさかのぼると、やはり、リーマン・ショック後に、中国政府が満を持して打ち出した4兆元に上る「大規模な景気刺激策」が、過剰生産能力を巻き起こし、さらには地方政府の債務問題にもつながっていった、要するに、一時的な景気回復のために、将来に禍根を残した、というのが中国政府の総括であり、検証だと思います。
だからこそ、景気がなかなか回復してこない昨今の苦境下においても、リーマン・ショック後の4兆元をほうふつとさせるような、「大規模な景気刺激策」の発動に対して、中国政府も慎重にならざるを得ない、というのが私の見方です。