恒大危機続く、中国政府が救済したくない5つの理由

 放漫経営から無謀な拡大路線を進み、巨額の負債を抱えて経営危機に陥った恒大集団をこのまま破綻させると、中国国内に連鎖倒産が広がり、社会不安が広がる懸念があります。

 人民元建て債務に加えドル建て債務もデフォルトとなれば、日米欧の金融機関、機関投資家にも巨額の損失が発生し、世界の金融市場にも混乱を生じます。

 そうならないように、中国政府は何らかの手を打つと考えられます。恒大だけ救済するならば、それに対応できる財務的余力はあると考えられます。ただし、中国政府には恒大を救済したくない事情があります。以下が、その5つの理由です。

【1】恒大の創業者が共産主義青年団(共青団)と親密

 恒大の創業者、許家印(きょ・かいん)氏が、胡錦濤(フー・ジンタオ)前国家主席らを輩出した共青団と親密であることが、習近平(シージンピン)主席が救済に前向きでない要因と考えられている。

【2】モラル・ハザードが広がる懸念

 放漫経営で負債を拡大してきた恒大をまるまる救済すると、「巨大企業は経営危機になると最後は中国政府が救済する」前例となり、同様の理由で経営が悪化している企業にモラル・ハザードが広がる懸念がある。

【3】「共同富裕」の精神に反する

 習指導部は、貧富の格差が極端に開いた現状を是正するため、共同富裕の政策方針を打ち出している。恒大救済は、不動産で大儲けしてきた金持ちを救済することになり、共同富裕の精神に反する。

【4】経済の構造改革に反する

 中国はかつて不動産・製鉄・石炭産業への投資拡大にのめり込み、需要を無視した過剰投資が負の遺産を生んできた。中国はそこから決別し、半導体産業やハイテク・電気自動車などを重点的に強化している。経営の悪化した不動産大手を救済・延命させることは、経済の構造改革に反する。

【5】経営が悪化している不動産大手は恒大だけでない

 恒大だけを救済すれば済むわけではない。もしこれから中国の不動産がさらに大きく下がると、他の不動産大手に危機が広がる懸念もある