買値にこだわるな

 投資に最も向かない性格は、自分の損(あるいは「負け」)を認めることが出来ず、これを投資で取り返しに行こうとする、「悪しき負けず嫌い」だ。

 古来、投資の大損事件は殆ど全てが、損を取り返そうとしてリスクを追加した事によって起こった。

 投資家は、自分が買った株式や投資信託の「買値」に、自分の意思決定が左右されないように意識的な努力を払うべきだ。

 お金の運用を考える上で重要な「費用(コスト)」の概念が二つある。一つは「機会費用(オポチュニティー・コスト)」であり、もう一つは「埋没費用(サンク・コスト)」だ。

 運用に回すとそれなりにプラスの利回りが期待出来るのに資金を遊ばせておくのは「機会コスト」の無駄だ。

 一方、自分が買った値段に拘って、「買値に戻るまで売れない」と思って買った株を塩漬けにしたり、まして下がった株価で買い増しして平均コストを下げて売り逃げしようと試みたりするのは、非合理的な行動だ。既に生じた損は、埋没費用であり、過去は変えられないのだから、現在の株価でその持ち株をどうするかということ「だけ」で投資の意思決定をすべきなのだが、これがなかなか出来ないのが多くの投資家の現実だ。

 四箇条をもっと絞り込むなら、始めの二つだろうと筆者は思うのだが、読者はどう思われるか。読者も、「お金の運用の心得○箇条」を考えてみて欲しい。

【コメント】

「○○のための×箇条」といった趣旨の原稿は過去に何度も書いているし、これからも書くだろう。今回の「四箇条」は、その中でも選りすぐりのラインナップかも知れない。

(1)他人を信用しない、(2)リスクの見当をつけろ、(3)手数料を重視せよ、(4)買値にこだわるな、の何れも現在でも重要だと強調したいテーマだ。簡単に補足すると、【1】お金の世界では他人を頼ると高くつくし、【2】人生には予定外に備える「プランB」を持つことが大切だ。また、【3】運用にあって手数料の重要性は決定的だし、【4】自分の買値へのこだわりを捨てられない投資家は現在も多い。このこだわりを克服できたら「上級者」だと呼んでいいだろう。

 ご参考になれば幸いだ。(2021年9月21日 山崎元)