四箇条

「○箇条」は、条文の数を増やすと網羅的になるが、覚えにくくなる。できるだけ絞り込んで、しかし、重要なポイントを思い出す手掛かりになるようなものがいい。例えば、「運用は、(1)長期、(2)分散、(3)低コスト」というようなキャッチ・フレーズは、なかなか良く出来ていると思う。しかし、「長期」という点は用い方に誤解を招きやすい点でもあるし、投資として常に良い訳でもない。また、「分散」は「リスク」ということを思い出してくれるなら、自ずと関心が向かうのではないか。このように考え始めると、あれこれと対案が思い浮かぶ。

 今回、筆者は以下の四箇条にしてみた。覚えやすいようにテーマだけを抽出するなら、(1)他人、(2)リスク、(3)コスト、(4)サンク・コスト(埋没費用)だ。

お金の運用心得四箇条

  • 他人を信用しない
  • リスクの見当をつけろ
  • 手数料を重視せよ
  • 買値にこだわるな

他人を信用しない

 通常の生活者が自分のお金を扱う上で最も重要なことは、様々な「他人」に対して「健全な警戒心」を持ち続けることだと思う。経済合理的な人間は、特に有利な利益機会があれば、それを他人に教えるのではなく、自分で使うはずだ。この身も蓋もない経済常識をまずは頭に叩き込むべきだ。

 警戒すべき他人の範囲は広い。だが、敢えて最も警戒すべき他人を挙げるなら、取引している銀行の銀行員さんだろう。銀行は、顧客の口座のマネーフローを通じて、顧客の経済状況をかなり詳しく把握する事が出来るし、何よりも顧客の所持金について、定期預金の額と満期や、退職金の振り込みに至るまで、よく知っている。素人が、セールスマンとして相手にするには手強すぎる。

 加えて、特に銀行が対面型のセールスを行う投資商品(投資信託や個人年金保険など)には、選んでいいと思える商品(ノーロードで年間手数料はどんなに高くても1%が上限だ)は一つもない。

 しかし、銀行員に加えて、証券会社のセールスマンや、時にはFPなども含めてだが、顧客に手数料の高い商品や非合理的な商品(毎月分配型ファンドのような)を売りつけることが巧みだ。

 また、エコノミスト、ストラテジスト、アナリスト、あるいはFPも(もちろん経済評論家も)、将来の金融商品のリターンなど正確に分かる筈も無いし、しばしばビジネス上の都合に左右された情報を発信する。

 例えば、私・山崎元も、分からなくても分かったふりをすることがビジネス上利益になる場合もあるし、その場合に、自分が分かっている以上に自信を持っているかのように、単なる推測を述べることがある(なるべくそうしないようにしているし、反省もしているのだが)。そして、たぶん、私よりも自分(ないしは所属会社)のビジネス上の利益に発言内容が影響されやすい「専門家」は数多くいるように思われる。

 しかし、自分が新米ファンドマネジャーだった頃のことを思い出すと分かるが、専門家の発言を見聞きすると、何らかの影響を受けるものだ。彼らを専門家だからといって信じるのはいけない。

 加えて警戒すべきなのは、友人・知人などの口コミだ。彼らは、意図的にあなたに自分自身の利益になるような行動を取らせようとしないかも知れないが、しばしば誤った情報・意見の代弁者になる。また、怪しい金融商品などに引っ掛かった時、そうとは気づいていなくても、人は無意識のうちにも自分の仲間を作りたいと思うものなのだ。「これはいいよ!」、「僕は儲けた」、「ある専門家から特別に教えて貰った商品(情報)だ」といった言葉に影響されてはならない。

 人間は、意図や感情をもって、情報を歪めて伝える。「市場のリスクよりも、真に恐ろしいのは人間の方だ」というのが、ざっと30年ほど金融関連の業界で働いてみた筆者の実感だ。