「投資信託の売り時」はいつ?含み益がたくさんあっても長期投資すべき?

――「投信の売り時」について、お2人はどう考えられますか?

代田 投資の効率性という観点からは、「必要なときに解約すればいいのではないか」ということです。マーケットの水準をみながら解約のタイミングを計るのは、思うほどうまくいっていません。

山崎 多くの金融メディアが景気その他の要因を考え、タイミングを見極めてメリハリをつけて投資しましょう、と言います。しかし、果たしてそんなことをプロができているかというと、プロもできていません。個人投資家の方も、きっとプロと同じぐらいできないでしょう。

「投資のタイミングは予測できない」ということを前提とするなら、解約に関しても、お金が必要になるときまで、ずっと投資を続けて、長期間、株式市場というマーケットの中にお金を置いて、上げ相場も下げ相場も全部つきあうつもりで投資するのが合理的です。

 ここで大切なのは、自分が買ったときの価格や儲かっているか損しているかに影響されずに、「必要があれば部分的に解約する」ということです。最終的には、お金は使うためにあるわけです。そして、自分が買った値段は将来の価格変動に関係する要因ではないので、こだわらない方がいい。

 個人投資家の方に話を聞くとこの点の割り切りができない人も多いのですが、「たかがお金の話なんだから、合理的に割り切ってしまいなさいよ」というのが、ほったらかし投資のベースにある少しドライな基本思想です。

――ここ数年は上昇相場が続いていることもあり、利益確定の誘惑にかられている人も多いと思いますが、その気持ちを抑えて、長期投資を継続するために必要な心構えを教えてください。

山崎 行動経済学的には「安く買って高く売った、自分は一回勝負に勝った」と考えたくなるのかもしれませんし、せっかく利益が出て勝っていたのに、これから負けのゾーンに入ってしまうのはすごく残念だ、と心配する可能性は大いにある。

 でも、それは「合理的ではない」ということなのです。世の中には、「気持ちの問題も大切ですから、3割上昇したらいったん利益確定しましょう。反対に1割下がったら損切りしましょう」といった根拠のない民間療法のようなことを教える金融関係者がたくさんいます。

 しかし、1,000円で買ったものが1,300円になったら、それは今1,300円のものだと考えて、それだけを前提に判断するといいし、800円に値下がりしても事情は同じです。問題は「将来いくらになるのか」なのであって、将来の予測に「自分がいくらで買ったか」という買値はまったく関係ありません。

代田 投資は勝負ではないですよね。

山崎 投資は目的ではなく、お金を増やすための手段でしかありません。

――そもそも「投資というものに対する考え方が問題だ」ということでしょうか。

代田 投資にも2つのタイプがあります。1つ目は探求型投資。新聞やマネー系の雑誌をいっぱい読んで、証券会社からも情報をいっぱいもらって、この銘柄が値上がりしそうだ、このファンドはすごいらしいと銘柄発掘、ファンド探しをする。これも投資のタイプで、合理的な資産形成というより、投資を趣味のように楽しむというものです。

 2つ目は、「ほったらかし投資」のような長期分散投資で、これは探求的な投資というより、論理的な資産形成型のアプローチです。メディアも証券会社もこれまで探求型投資を一生懸命サポートしてきましたが、つみたてNISAの普及もあって、王道である長期分散による資産形成の世界が日本にも根づきつつあるのではないでしょうか。

山崎 もちろん趣味だからといって、非合理的なポートフォリオを作るのでは残念です。趣味としての投資に興じたい人にも別途、投資の仕方を鍛える方法はある。たとえば、個人が個別株投資でリーズナブルなポートフォリオを作るのは少し難しいと思いますが、できないことではありません。

 ほったらかし投資はおおむね合理的な投資だと言えますが、たとえばこれをベンチマークとして、どんなポートフォリオを作ったらいいかと考えると、個人の個別株投資が進歩するきっかけになるのではないでしょうか。