ガバナンス情報の重要性が高まる

 ガバナンス情報が重要なことについては、ほとんど異論がありません。近年、ガバナンスの悪い企業の株価が暴落する事件が頻発しているからです。ガバナンスの良し悪しは、短期的に財務に大きな影響を与えるようになっています。したがって、ガバナンス情報には、年金のような長期投資家だけでなく、ヘッジファンドのような短期投資家も、目配りする必要が生じています。

 たとえば、国際的なカルテルの疑いで取り調べを受けている企業について、「クロと判定された場合の課徴金がいくらか?」は、重大な関心事です。

 日本企業には、古くから同業内で情報交換する習慣がありました。ただ、その慣行が、海外でカルテル(価格情報の交換により一定以下に価格を引き下げないようにする暗黙の協定)とみなされるようになりました。自動車部品では、幅広い分野で日本企業がカルテルでクロの判定を受け、巨額の課徴金を取られるケースが後を絶ちません。

 カルテルの国際的な調査は、年々厳しく、また巧妙になってきています。カルテル行為に加担した企業のうち、最初にカルテルを認めて情報を提供した企業だけは、課徴金を免れ、それ以外の加担企業が莫大な課徴金を取られるという方法がとられることが多くなりました。こうなると、我先にとカルテルを認める企業が出て、連鎖して次々と巨額の課徴金を取られる日本企業が出るようになっています。

 日本の製造業は今や日米欧含めて、世界的に業務展開しています。日本でカルテル課徴金を取られると、米国でも欧州でも、次々と制裁を課され、課徴金がどんどん膨らみます。そうしたコンプライアンスリスクを抱える企業への投資を、投資家は避けようとします。

 働き方改革も、単なる従業員福祉の問題ではなくなりました。改革の遅れている企業がブラック企業として悪評がたつと、採用やビジネスで不利をこうむるようになります。また、働き方改革の遅れが労働生産性の低下につながると、直接企業業績に悪影響を及ぼします。

 というわけで、年金など機関投資家は銘柄選別の際、違法残業の有無やダイバーシティへの対応にも気を付けるようになりました。働き方改革が遅れていて、ガバナンスに問題のある企業に投資すると、財務に大きなダメージを受ける可能性が高まってきたからです。

 年金などの機関投資家は、近年、議決権行使を重視するようになりました。議決権行使を通じて、ガバナンスに問題のある企業に圧力をかけるようになりました。情報ソースとして、広く公開されているものに、東京証券取引所が求めるガバナンス報告書があります。ガバナンス報告書や、CSR報告書、統合報告書などに開示される非財務情報は、機関投資家にとって財務3表と並ぶ重要情報となりつつあります。

既存のESGファンドは玉石混交

 今はまだ、ESG運用の創成期です。ESGといっても、あまりに幅が広すぎるので、何を重視するかファンドによってばらばらです。次々とESGを重視するファンドがリリースされ、巨額の資金を集めるようになりましたが、パフォーマンスもバラバラです。

 今は玉石混交のファンドが次々と出てきている段階です。ESGを重視しつつ高いパフォーマンスをあげていくファンドが選別されていくには、まだ時間がかかりそうです。