日本の投資家は、古くから省エネ・環境技術を重視してきた

 欧米でESG投資が脚光を浴びるよりもはるかに昔から、日本の投資家は、投資対象を選別する際に、E(省エネ・環境技術)に注目してきました。なぜならば、E重視が直接、企業の利益に結び付いてきたからです。

 日本の自動車産業が世界でシェアを伸ばし続けてきた背景として、日本車が省エネ・環境技術で優れていた事実が大きいと言えます。原油価格が継続的に上昇していた2000年代の始めには、省エネ・環境技術が日本企業の重要な武器でした。今でも日本企業は、省エネ・環境技術では、世界トップクラスを維持しています。

 というと、日本企業がESGスコアのEで、軒並み高い値をとっているように聞こえますが、実際はそうではありません。現在のESGスコアで、日本企業はあまり高く評価されません。

 近年のESG重視の国際的な流れの中で、日本企業は不利な立場に追い込まれています。日本企業は、「化石燃料の効率利用」で世界トップクラスの技術を持っています。ところが、今主流のESG基準は、どんなに化石燃料を効率的に使っていても、化石燃料を使う限り「悪」とみなす傾向があります。化石燃料の効率利用で世界トップの日本企業でも、ESG基準で「悪」とレッテルを貼られるリスクがあります。

 たとえば、トヨタ自動車のハイブリッド車がそうです。ガソリン車に比べて、大幅な燃費改善・環境負荷の低下を実現しています。それでもガソリンを使うことが問題視されているため、欧米主要国では環境車として認められていません。

 一方、EV(電気自動車)関連企業は、ESGで高く評価されます。EVは走る際に、一切排ガスを出さないからです。ところが、EVにも問題はあります。EVを動かすのに使う電気を作る時、大量の化石燃料を使うことです。今のESG基準は、そうしたEVにとっての不都合な真実には目をつぶっています。

 私は、ESGを重視することは、地球にとっても運用にとっても重要だと考えています。ただし、既存の基準には異論があります。既存のESG基準が欧米、とりわけ欧州中心に作られているからです。日本から見ておかしいと思うところが、多々あります。

 それでも、今はやりの基準を無視することはできません。今ある欧米の基準に基づいて世界のルールが作られているからです。環境スコアが低い企業がペナルティを支払わされ、環境スコアが高い企業がそれを受け取る時代となっています。ESGが財務・株価に影響を与える影響は、否が応でも大きくなってきています。