執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 北朝鮮問題・米中対立懸念に、米シリア攻撃を受けて米ロ対立が加わる懸念が出た。政治不安を背景に円高が進み、日経平均は外国人の売りで下落した。
  • 世界および日本の景気回復が強まっており、2017年の前半は、政治不安があっても日経平均上昇は反転・上昇に向かうと予想。

(1)北朝鮮不安・米中対立懸念に、米シリア攻撃を受けて米ロ対立懸念が加わる

先週の日経平均は、1週間で245円下がり、18,664円となりました。日経平均は、2017年に入ってから、おおむね18,900-19,600円の狭いレンジのボックス圏で推移していましたが、先週は、そのレンジを下に抜けた形となりました。

日経平均日足:2016年11月7日―2017年4月7日

(注:楽天証券マーケットスピードより作成)

東アジア・中東で地政学リスクが高まり、円高が進んだことが、嫌気されました。

ドル円為替レート日足:2016年11月7日―2017年4月7日

(注:楽天証券マーケットスピードより作成)

ドル円も、3月後半に、ボックス圏を下(円高方向)へ抜けた形です。トランプ米大統領が、保護貿易主義を強化する懸念も、円高進行の背景にあります。3月31日に、中国や日本をターゲットとして、貿易不均衡の原因になっている不正行為がないか調査する大統領令を出した影響が、尾を引いています。

(2)シリア和平遠のく

米国がシリアのアサド政権に向けてミサイル攻撃を仕掛けたことで、シリア和平への道は遠のきました。

シリア内戦では、アサド政権・反アサド派・IS【注】(イスラム教過激派勢力、)の三つどもえの争いが続いています。

【注】ISとは:イラク南部・シリアに展開するイスラム教過激派勢力。世界各地で起こるイスラム過激派によるテロで、犯行声明を出している。以前「イスラム国」と日本のメディアで表記されていたが、国家として認められていないので「IS」と表記が変わった。

IS掃討を優先するために、アサド派を支援するロシアと、反アサド派を支援する米国が話し合い、アサド派と反アサド派の休戦を実現する方向で、検討が進められていました。トランプ米大統領が、ロシアのプーチン首相と親密で、米ロ関係改善に意欲を示していたことが、追い風となっていました。共同でISを撃退できれば、シリア和平への道は一気に開けるはずでした。

ところが、今回、アサド政権が化学兵器を使用したとの疑惑に基づき、米国がアサド政権にミサイル攻撃をしかけたことで、シリア情勢は暗転しました。アサド政権を支援するロシア・イランは、米国のミサイル攻撃を非難しています。米ロ対立が復活する懸念が生じました。アサド政権・反アサド政権の間で戦闘が激化すれば、再びISが息を吹き返し、勢力を拡大する懸念もあります。

シリア内戦は元々、ロシア・イランが支援するアサド政権と、米国・サウジアラビアが支援する反アサド派の間で、起こったものです。両派の戦闘が長引くうちに、反アサド派の一部がイラクのISと結びつき、一気に勢力を拡大しました。以降、アサド派・反アサド派・ISの三つどもえの争いとなっています。

なお、反アサド派と言われるのは、アサド政権と対立する多数の異なる勢力の寄せ集めです。ISと合流したのは、その中の一勢力でした。

(3)外国人の売りは続くか?

日本株を動かしているのは、外国人投資家です。外国人は、買う時は上値を追って買い、売る時は下値を叩いて売ってくる傾向があります。3月後半から、外国人の売りが増えたことで、日経平均は下落に転じました。

昨年11-12月は、外国人の日本株買いで日経平均は急騰しましたが、今年に入ってから外国人の買いは止まり、3月後半から売り越しに転じています。

日経平均と外国人の売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物の合計):
2016年1月4日―2017年4月7日

(出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成)
(注:上のグラフの外国人売買で、棒グラフが上(プラス方向)に伸びているのは買越、
下(▲の方向)に伸びているのは売越を示す)

3月最終週(27-31日)は、外国人は、株式現物を売り越しましたが、日経平均先物が買い越しで、トータルでは小幅買い越しでした。ただし、まだ統計は出ていませんが、4月第1週(3-7日)は、再び、大幅に売り越していると推定されます。

ここから先、外国人の売りは続くでしょうか?私は、2016年1-3月のように、しつこく外国人売りが続くとは考えていません。2016年1-3月は、世界に政治不安が広がる中で、世界経済も悪化していました。「世界景気敏感株」であり、「世界政治不安敏感株」でもある日本株を、外国人が大量に売ってきました。

今、世界の政治不安は拡大していますが、世界経済は回復基調にあります。米国だけでなく、中国・東南アジア・欧州も回復しつつあります。日本の景気・企業業績にも回復期待があるので、私は、外国人の売りは長くは続かないと予想しています。

世界の政治情勢がさらに悪化し、政治不安によって世界経済が悪化に転じることがない限り、日経平均の下落局面は、割安な好業績を買い増しする機会となると予想しています。