その1 小さな節約をしない

 普通言われていることと逆かも知れないが、それが趣味や楽しみな場合はともかく、小さな節約を常に心掛けるようなお金の扱い方は精神を貧しくする、というのが、筆者の考えだ。

 また、日常的なお金の使い方に関しては、月単位なら、最初に貯蓄すべきお金を取り分けて、その後は、「足りなくならないように自然に」使う金銭感覚を身につけたい。

 節約に関しては、住居費、自動車経費、生命保険といった大きな支出項目で手を打つ方が、効果は大きい。

「お金を目的と考え、制約条件として常に意識する」といった生活をするよりは、お金のことを気にしないで生活する方が幸せなのではないか、というのが、今回の本のコンセプトであり、筆者の考え方だ。もちろん、全ての人に当てはまるとは思っていないし、自分の考えを他人に無理に押しつけるつもりもない。

その2 「人的資本」に投資する

 人的資本への投資は、即ち自分への投資だ。将来の収入増加につながるのであれば、自分にかける教育費・教養費などは有効な投資だし、健康に対する投資も人的資本を増強していると見なすことができる場合があるだろう。

 投資するものはお金だけとは限らない。たとえば、運動のための時間が投資になる場合もあるし、睡眠時間が人的資本を増強する場合もある。なるべく広く考えたい。

 よほどの資産家は別として、勤労者の「最も稼ぐ資産」は自分自身だ。職業の選択や働き方、自分の人材価値の高め方などを常に考えよう。人的資本の価値をアップする方が、お金の運用で儲けるよりも遙かに確実で効果的な場合が多い。

 ただし、人的資本の強化とお金の運用とはお互いを妨げることなく共存できる。

その3 お金の計算は安全なほうに間違える

 理想的には「お金の計算は面倒くさがらずに正確に」と言うべきなのかも知れない。しかし、これは、それなりに面倒だ。一方、将来の計画を立てるにしても、リスクの見積もりをするにしても、あるいは、割り勘の計算をするにしても、大まかでもスピーディーな計算が大事な場合は多い。

 算盤の有段者のような計算に特別強い人の場合を除くと、スピーディーな計算はかなり大まかな概算になるだろう。その場合に、間違える場合には「安全サイド」に間違えるように計算すべきだと申し上げておきたい。

その4 お金は(なるべく)貸し借りしない

 お金を貸すことに伴うストレスや、お金の貸し借りで壊れる人間関係の多いことを考えると、他人にお金は貸さないと決めておくのがいい。

 ただし、これは「程度の問題」ではある。相手が重要な人の場合に、貸さないわけには行かない場合もあるだろう。しかし、お金は貸さないという原則を貫く範囲はできるだけ広く適用する方がいい。

 信用リスクの適切な判断は素人には(玄人にも!)難しい。

 厳密には、銀行に預金することは、その銀行にお金を貸すことだ。国債の購入は国にお金を貸すことだ。信用リスクの判断を全く何もしないというのは不可能だが、なるべくその判断がシンプルなものに自分のお金を「貸す」べきだ。

 投資のリスクを取りたくない場合、預金保険の上限を超えるお金については、国の信用リスクである点で個人向け国債(10年満期変動金利型)、分散投資が利いていて分別管理である点でMRF(マネー・リザーブ・ファンド)がほとんどの銀行定期預金よりも適切だ。