驚愕の2000年日経平均銘柄入替

 2000年4月の日経平均の銘柄入替は、日経平均のインデックス・ファンドの投資家に甚大な被害をもたらした。市場全体の動き(入替の前後1週間はほぼ平坦)と関係なく、入替に伴う市場要因で、少なくとも10%以上、当時の日経平均で2,000円以上、インデックス・ファンドの保有者は損をした。筆者のかつての同僚で、証券会社の自己売買に関わっているプロのトレーダーも、自分自身が保有するインデックス・ファンドで損をして憮然としていた。

 筆者は、当時、生命保険会社から銀行系のシンクタンクに転職する頃合いだった。

 自分の名前で、記事を書いたり、本を書いたりし始めた頃だったので、この銘柄入替について、幾つかの文章で説明した。

 詳細は省くが要点は、(1)銘柄入替でインデックス・ファンドの投資家に10%以上の損失が生じたがこの損の発生は日本経済新聞社が行った銘柄入替の拙さに起因する、(2)銘柄入替を利用した当時の証券会社の自己売買利益は業界全体で2,000億円を超えた(インデックス・ファンドの投資家等が損をした)、(3)日経平均は入替の前後で大きく「不連続」になった、(4)銘柄の入替はインデックス運用にとって損失が起こりかねない危険な機会である、といったことを論じた。

 直接抗議を受けた訳ではないが、筆者の論考は、上記の(1)と(3)、特に(3)について、当時の日本経済新聞社の役員の不興を買ったらしい。

 しかし、上記の諸点は何れも事実だ。数年後に、日本経済新聞社から出した拙著に説明があるのだが、元原稿のこの部分は修正されていない。

 この日経平均の銘柄入替を見て、筆者は、しばらく、インデックス運用に不信を抱くようになる。2000年代の前半に書いた本では、「投資初心者はインデックス運用が無難だが、少し詳しくなったら、自分で個別銘柄の分散投資のポートフォリオを運用する方が、面白いし、安心(インデックスの変化に対して)でもある」というニュアンスの意見を述べている。

 その後、2000年代の後半くらいから、(1)インデックスの銘柄入替が2000年の日経平均の入替ほど乱暴でなくなったこと、(2)インデックス・ファンドの運用手数料の低下が進んだこと、(3)個人投資家にとって個別銘柄でリスクのバランスの取れたポートフォリオを運用することが難しいと分かったこと、などから、現実的には、個人投資家に対しては「インデックス・ファンド推し」が適切だと考えるようになった。

インデックス・ファンドを使う個人の運用簡便法

 2008年に起こったリーマンショックの少し前くらいからだが、前述のように、個人投資家に勧める運用手段としてはインデックス・ファンドが相対的に優れているとの認識を持つようになった。アクティブ・ファンドは運用手数料が高すぎてばかばかしいし、個別銘柄のポートフォリオ運用は普通の個人には難しい、ということが理由だ。

 この頃から、2010年代の半ばくらいまで、手段としてインデックス・ファンドを利用する「個人の資産運用簡便法」をどう作ったらいいかに、筆者の興味と情報発信の中心が移る。書籍で言うと「超簡単」、「ほったらかし投資」、「難しいことは分かりませんが」、「お金に強くなる」といった言葉を含むタイトルの本たちがこれに該当する。

 幸い、この間に、インデックス・ファンドの手数料が下がったこともあって、インデックス・ファンドを使った運用の簡便法は、そこそこに機能するものに仕上がったと思う。