「お任せ運用」をすすめる人は腹黒い

 結局の所、投資家は、(1)自分の運用のリスクの大きさと内容を自分で決めて、(2)常に現状を把握できて、必要な場合には(3)自分の思う通りにコントロールできなければならない。初心者であろうとなかろうと、このプロセスを手放してはいけない。「わからない」なら、投資金額を小さくすればいい。バランス・ファンドにせよ、ラップ口座にせよ、他人に運用を任せると、これらがすべて「難しく」なってしまうのだ。

 そうであるにも関わらず、「初心者や運用が面倒くさい人は、他人任せの運用もアリだと思う…」というようなことを言うアドバイザーは、運用がまるでわかっていないか、「任せられることで儲かる人」の手先になっている腹黒い人だと疑って警戒するのが、「大人の経済常識」というものだろう。

鍵は「後悔回避」の克服

 ここまでの話は、それほど難しくなかったと思うのだが、それでも、多くの個人が、自分の大切なお金の運用を「他人任せ」にしてしまう原因は、行動経済学で言うところの「後悔回避のバイアス」にあるように思われる。後悔回避のバイアスとは、「自分が決定したことが将来失敗して、自分が自分の決定を後悔することが嫌であるために、自分で意思決定することを避けようとする人間の傾向性」のことだ。

 たとえば、複数の人とレストランに行った場合に、自分でメニューを決めずに、先にオーダーしてくれた他人のオーダーを真似して、「私も、同じの」と言うのが気楽であるような心理を想像して頂けるとわかりやすい。人は、こと投資のように、将来の結果が不確実で、失敗した場合に後悔をともなう行為に対して、「自分で決めないで済むと気が楽だ」と思う傾向がある生き物なのだ。この心理を克服することが、お金の運用全般にあって大切だ。

 しかし、「任される側」の能力や利害、「任せる側」の判断能力や支払いコストなどを考えると、自分のお金の運用方針を他人に決めてもらうように任せるという行為は、運用が余程詳しく、かつ相手に対する立場が強いのでない限りできるものではない。

 おおまかだが、結論を言おう。

 個人は、内外の株式のインデックス・ファンドと個人向け国債・変動金利10年満期の、3つの運用商品を知っていると、それで十分だ。それ以外の余計な運用商品を知る必要はない。その代わり、自分が取ることが適切なリスクの大きさについてだけは、他人に任せようとするのではなく、自分で考えて欲しい。リスクはリスク資産への投資金額の大小で調節するといい。そのほうが、ずっと簡単でかつ安心なのだ。

【コメント】

 2017年公開の記事で、それほど時間が経っていないということもあり、本文の趣旨に訂正箇所はない。敢えて付け加えると、お金を他人に「任せる」といっても、全財産を一人に任せるケースは珍しいだろうが、自分のお金の一部を預けた場合、「自分の運用資産全体の問題」を再度自分で考えなければならないという問題の重要性を強調しておきたい。任せる相手が、人間のアドバイザーであっても、AI(いわゆるロボアド)であっても、問題は同じだ。お金の運用に関しては、「専門家」に任せたことで、問題は解決しないのだ。

 もちろん、全財産を一人のアドバイザーに任せたら上手く行く訳でもないことは、本文を読んで頂けたらご理解頂けるだろう。(2021年7月1日 山崎元)