「カモ」の先輩は企業年金

 実は、上記のリストを考えるに当たって脳裏に浮かべた事例がある。それは、1990年代の「厚生年金基金」という制度を中心とした企業年金の状況だ。彼らは、たとえば、「我々は運用の素人だし、十分な数のスタッフもいない。たとえば、アセット・アロケーションのような高度な意思決定を自前でやることは難しい」と言って、たいていは複数の、信託銀行や生命保険会社、あるいは内外の投資顧問会社にバランス型で運用を委託して、多くの場合、基金全体のアセット・アロケーションも把握することができない状況に陥り、アセット・アロケーションを適切に動かすこともできず、余計な手数料を払っていた。

 つまり、何百億円、何千億円といった運用金額の大きさは違ったかも知れないが、やっていることは、金融機関のすすめに従ってバランス・ファンドを買ったり、ラップ口座にお金を預けたりしている今日の個人投資家と変わらない、金融機関の「カモ」(「顧客」と書いて「カモ」とフリガナを振るのが筆者のかつての常だったが、愚かにも儲けられているという意味で「カモ」と呼んでいいと思う)の典型的な先輩なのだった。また、企業年金というカモの先輩は、年金コンサルタントと称するアドバイザーをわざわざお金を払って雇い、上手くできるあてのないアクティブ・ファンドの運用会社選びを行って、コンサルタントとアクティブ運用の会社の両方に余計なコストを払う人達でもあった。

 1990年代から2000年代にかけての時代が悪かったという背景はあるが、こうした企業年金の運用は、「もちろん!」上手くいかなかった。多くの厚生年金基金の解散や、国から預かって国の代わりに運用していた厚生年金の一部の運用資産(「代行」部分と称する)を返上して資産を縮小して看板替えをするような状況に追い込まれた。

 個人投資家の皆さんには、彼らの轍を踏んで欲しくないと筆者は思う。

 付け加えると、筆者は、かつての厚生年金基金の人達に、「自分が取っていいリスクの求め方と、説明の仕方(企業年金は、主に母体企業の経営者に運用方針を説明しなければならない)」と「アセット・アロケーションの方法」、さらに個々の資産分類の運用を「インデックス・ファンドだけで行うこと」を、もっと真剣に教えてあげたら、彼らはもっと上手く運用をコントロールできたはずだし、少なくとも、余計な支払手数料が大幅に節約できたのに、との残念な感情を禁じ得ない。当時、バランス運用の形式で、特に複数の会社に運用を委託することの難しさや無駄は年金基金の関係者に対して力説したように思うが、自分がアクティブ運用好きであったこともあり(今でも、好き嫌いで言うと、アクティブ運用の方が好きだ)、企業年金の人々には現実的に扱いきれない「難しい話」をし過ぎていたことを、今は、反省せざるを得ない。