バランス・ファンドやラップ口座は初心者向きなのか?

 今回むこうとしているタマネギの皮は、「運用を他人に任せる」ということの価値評価の問題だ。たとえば、「バランス・ファンドは初心者に向いている」とよく言われるが、これは本当なのだろうか、といった問題をどう考えるのが適切なのかということだ。筆者は、バランス・ファンドやラップのような「お任せ商品」を扱っている会社に所属している身であるが、本件については、自分の利害(会社の利害はひいては自分の利害でもある)を離れて「投資家にとって正しい」という観点から考えを述べてみたい。

 例えば、バランス・ファンドについて、詳しい論点は、本連載の前々回に書いたが、例えば投資家が集まる場所でお金の専門家と意見を交換すると、次のように言われることがある。「人は、特に運用の初心者は、ヤマザキさんのように合理的に運用を考えられる訳ではないので、運用を他人に任せるというのは『あり!』なのではないですか」といった意見だ。

 この意見は、「ヤマザキさんは、合理性や論理にこだわるうるさい人だ」という印象の操作とともに用いると、なかなか効果的に響く場合があって油断できないのだが、根本的な価値観の方向が間違っているのではないだろうか。端的に言って、バランス・ファンドやラップ口座のような、「他人に運用を任せる」行為は、本来は難しいことであって、少しも初心者向きではない。

他人任せが実は「難しい」8つの理由

 他人に任せることが実は「難しい」のだという理由は複数ある。

1.    任せた運用の中身の把握が「難しい」
2.    任せた運用の中身を思うようにコントロールすることが「難しい」
3.    運用の一部に他人任せの部分ができると全体の把握とコントロールが「難しい」
4.    任せる他人の運用能力を評価することが「難しい」
5.    任せた他人と自分との利益相反(経済的利害の対立)の発見と制御が「難しい」
6.    他人に自分の状況を正しく伝えることが「難しい」
7.    他人の側で顧客の状況に合わせて運用することが(実は!)「難しい」
8.    任せることによる手数料の増加を抑え込むことが「難しい」

 数え上げてみると、当初思っていたよりも多くの「難しさ」がリストアップできた。