※本記事は2017年12月21日に公開したものです。
「先入観タマネギ」の皮をむく
筆者は、いろいろな場所で、様々な人を相手に、長年、運用に関する話をしたり、文章を書いたりしている。それが仕事である。ところが、運用に関するごく基本的な内容について、自分が何らかの先入観に囚われていることに気がつく場合が時々ある。
近年の例を挙げると、筆者は、「お金の運用には、さまざまな方法や投資対象があり得て、個人個人の事情によって、最適な方法(たとえばアセットアロケーション)や商品が異なるものなのだ」という通念に過剰に自らが縛られていることに気づいた。
しかし、よくよく考えてみると、お金の運用の目的は、誰でも「無理のないリスクの範囲で、なるべくお金を増やすこと」が共通であり、最も効率のいいリスクの取り方(たとえば運用商品の組み合わせ)がわかっているとすると、初心者でもベテランでも、運用金額が大きくても小さくても、運用方法は同じでいいのだ、ということに思い至った。「顧客タイプ別の運用」という概念は、金融業界が、商売のために作り上げたフィクションだったのだ。この作り話はなかなか強力で、金融商品取引法のような法律を含む法と規制もその影響下にある。
このことに気づく前は「個人の経済的な属性を複数のファクターで分析すると、個人個人の事情に従って、異なる最適な運用があるのではないか」という問題意識をなかなか捨てることができなかった。金融ビジネスの世界においては、年金運用のような機関投資家の世界には年金のALM(資産と負債を統合的に分析する手法)のような手法があるし、個人向けのビジネスの世界でも個人個人に合った運用方法をファイナンシャル・アドバイザーがコンサルティングするような手法が一般的なので、世の中で行われていることを理論的に理解して、簡単にできないか、という方向にばかり頭を使っていた時期がある。
しかし、近年、ビジネスとしての「ファイナンシャル・コンサルティング」の胡散臭さを感じるケースが増え、その世界で「当たり前」とされている前提を疑ってみると、少なくとも普通の人にとって、お金の運用というものは、もっとシンプルで、かつ同じ方法のものでいいのだということに気づいた。お恥ずかしい話であるが、筆者の中では、こうした理解の進歩はごくゆっくりとしたペースで進んでいて、いわばタマネギの皮を、一枚に何年も掛けてむいているような案配で、自分の運用常識をアップデートしているのが現実だ。