不安の正体

 相場が方向性を見失うと、不安に駆られて、つい明快な情報に心がなびき、単純化された相場テーマに走りがちになります。さらに相場がモタついたままだと、市場参加者の気勢も萎(な)えて、相場情報そのものへの関心が減退しやすくなります。

 SNS(会員制交流サイト)では、そんな人々の関心を引きつけるために、情報発信者側では、各種市場を目移りさせながら、暴落だ暴騰だ、危機だ好機だと、言葉を先鋭化した「予想」がアクティブになるようです。

 しかし、冷静に見れば、ファンダメンタルズに不確実性はあっても、変化の方向は、神経質な市場の目線ほど激しいものではなく、政策当局のスタンスもゆっくり慎重に進められています。ぜひ、中長期の視座と、短期の市場心理の動揺を峻別してほしいのです。

 ファンダメンタルズと政策対応の中長期観を要約すると、景気回復は加速、インフレが過渡的か真性かの判定は6~12カ月先、FRBは是々非々対応で慎重にゆっくり緩和解除を模索、債券は金利上昇に折々に敏感になり得るものの当面は冷静、ドルもまた金利動向に敏感ながらも底流に軟化基調、資源など商品は基調的に需要増加、株式は金融相場の変わり目で神経質ながらも、ショック性のリスクは昨今の調整でガス抜きされ、業績相場へ、というところが筆者の見立てです。

 こうした中長期観を基本視座に据えれば、昨今の相場にまつわる不安の正体は、FRBの政策スタンスのシフトやファンダメンタルズの変化というよりも、自分自身の既保有の投資ポジションの不安定な損益状況にあることが分かるでしょう。

 投資家としてはどう構えたらよいでしょうか。

 投資家は、ファンダメンタルズも相場も制御することはできません。できることは、その変化を読み取り、自分の心理と投資ポジションを制御することで、変化に乗るのみ。幸い、コロナ克服へ経済は正常化に向かい、これまでのところ、FRBは適切に対応していると言えるでしょう。昨今の不安定な相場がこのままダメになっていくというより、順当には、2~3月の調整反落、4~6月の試行錯誤を経て、夏相場へ向かうとの見立てです。足元の下値の堅さをチェックしながら、慎重に前向きの投資スタンスを継続するステージと判断します。

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