レッドツーリズムとは何か?経済効果は?

 レッドツーリズムとは何か? 私は次のように定義づけています。

 中国共産党の歴史や政策に関係する名所を観光地化し、人民の「愛国心」に火をつけ、そこに便乗する形で景気を活性化し、同時に党の政治的求心力を高めるための観光戦略。

 中国のグーグルとされる検索エンジン「百度」によれば、「紅色旅遊とは、中国共産党の指導者や人民が革命や戦争の時期に建設し、その功績として遺してきた記念となる場所、象徴的な建物を触媒とし、それらが持つ革命の歴史、軌跡、精神を中身とし、観光客がそれらを追想、学習し、楽しむというテーマを持った旅行活動」だといいます。中国共産党用語で分かりにくいですが、言わんとしていることは理解できるでしょう。

 日本人からすれば心境は複雑ですが、典型的な名所の一つとして挙げられるのが、全国各地に建てられた「愛国主義教育基地」の一つである「抗日戦争記念館」。北京では盧溝橋にあります。その他、上海にある中国共産党第1次全国代表大会記念館、湖南省にある毛沢東(マオ・ツォードン)故居、地域的には、中国共産党が革命の根拠地にしていた陝西省の延安、江西省の井岡山などが象徴的だといえます。

 レッドツーリズムには、無数ともいえるほど、多種多様な「路線」があります。

 共産党当局がオフィシャルサイトなどを通じて紹介、規定するものもあれば、すでに定番と化しているもの、国民が自らの時間や懐具合に基づいて自発的に選択するものもあります。

 当局の統制、検閲下にあるメディアは、昨今の情勢下において、百周年を盛り上げるべく、「紅色旅遊」にまつわる名所や路線に関して、大々的なプロパガンダ(宣伝工作)を展開しています。

 私自身が約10年間生活した北京に関して、1日のツアーについて想像力を働かせてみます。

 早朝、建国の父・毛沢東が図書館事務員として働いたことのある北京大学、同大に隣接し、習総書記や前任の胡錦涛(フー・ジンタオ)総書記が学生時代を過ごした清華大学を見学。その足で、市街地北西部に位置する香山公園まで行き、ぶらぶらする。

 それから車を飛ばして郊外にある盧溝橋へ向かい、中国共産党が独自の政治的立場やイデオロギーから日本との戦争をどう定義しているのかを「学習」。

 夕方までに天安門広場に戻ってきて、隣接する毛沢東祈念堂や人民大会堂、そして天安門城を眺める。

 日が落ちる前に、故宮の北側に位置し、小高い丘になっている景山公園の頂上まで登り、夕陽に落ちる北京の街を見届ける…。

「紅色旅遊」の経済効果も注目に値します。

 中国外交部の汪文斌(ワン・ウェンビン)報道官は、6月11日の定例記者会見にて、2019年、中国レッドツーリズムへの参加人数はのべ14億を超え、収益は約4,000億元(約6兆円)に達し、新型コロナウイルスに見舞われた2020年も、レッドツーリズムが観光市場の復興を促したと説明しています。

 6月22日、中国大手旅行サイト「去哪儿」(Qunar)が発表した『2021年紅色旅遊発展報告』によれば、コロナ禍に見舞われた2020年、同サイトを通じて紅色旅遊に参加した人の平均消費は1,287元(約2万円)、紅色旅遊自体のマーケット規模は1,000億元(約1兆6,000億円)に達したとのこと。

 また、国内観光業の収入が1元(約16円)増えるたびに、第3次産業に対する10.7元の消費が見込めるとのことです。

 中国がますます重視する内需拡大のテコとして、これまで以上に観光業を国策として促す可能性を指摘しています。

 経済がコロナ禍から回復し、共産党百周年を目前に控える中で迎えた端午節の3連休(6月12~14日)。文化旅行部データセンターの試算によれば、この3連休、全国の旅行者数はのべ8,914万人、観光収入は294.3億元で前年同期比140%増となり、コロナ禍前の75%まで回復。全旅行者のうち88%が道中において、紅色旅遊を体験したとのことです。