3:「愛国心」の高揚と中国人の処世術

 三つ目に、官民一体で供給されるレッドツーリズムに対して、国民も積極的に応えているという国情が挙げられます。

 動機としては、中国が経済的、軍事的に強国を目指し、欧米諸国とも激しい攻防を繰り広げている中、国民の間で愛国心やナショナリズムが高まっている、換言すれば「人民の紅色化」が進んでいるという現状がまず挙げられると思います。この点において、若者も例外ではなく、むしろインターネット世代である若年層から進んで、共産党の体制や政策を擁護する向きすら見いだせるほどです。

 また、中国人の複雑な人間関係や処世術も関係しています。

 学園内、家族親戚、友人、職場といった人間関係の中で、「あなたは愛国的だ」と認識されることは、自らの人生を生きやすくすることにつながるのです。

 逆に、日ごろから米紙「ニューヨーク・タイムズ」を読んでいる、VPN(仮想私設網)を使って海外の映像ばかり見ているといったうわさが広まると、「非国民」「売国奴」といったレッテルを貼られるリスクに見舞われます。

 北朝鮮ほどではないにしても、中国は依然として相互監視社会であり(習近平政権でこの傾向は強まっている)、自らの手柄や出世のためには、党に対して身内を内部告発することすら辞さない、厳しい世の中なのです。

 大学を卒業したばかりの若い人が数名で、毛沢東像を見にいったり、抗日記念館を参観したりしながら、中国の強さ、共産党の偉大さを相互に、力強く語り合ったりする光景には、まさに中国人の生きざまが切実に露呈されているといえるでしょう。