中国企業に米上場廃止のリスク。でも中国の成長力は無視できない
バイデン政権は6月3日、中国人民解放軍との関係の深い企業、人権侵害につながる監視技術を開発する企業など59社に対して、株式購入など投資を禁じる大統領令に署名しました。
トランプ前政権は2020年12月、外国上場企業に対する規制を厳しくする法案「外国企業説明責任法」を成立させました。監査法人が公開企業会計監査委員会の検査を3年連続で受け入れなかった場合、その監査対象企業は上場禁止となるのですが、現状では、海外の機関が中国国内の監査法人から監査資料を得たり、現地での調査をしたりするのを中国政府は許していません。この法律によって、米国上場の中国企業には上場廃止のリスクが出てきました。
しかしながら、米国政府が中国企業の締め出しを図る中で、まったく逆行する動きも見られます。
本土最大の配車アプリ企業である滴滴出行(DiDi)は6月10日、米国証券取引委員会に上場申請(ティッカーはDIDIを予定)を行いました。引受幹事団はゴールドマン・サックスを筆頭に、モルガン・スタンレー、JPモルガン・チェースなど欧米系投資銀行が名を連ねています。
時価総額は、類似会社であるウーバー・テクノロジーズ(UBER)との比較から1,000億ドル(10兆9,000億円)程度になるのではないかといった見方もあります。
現段階ではどの程度のIPO(新規株式公開)規模となるのかは分かりませんが、相場環境や、機関投資家たちの需要の強さ次第では、今年最大クラスの大型案件になる可能性もありそうです。
セルサイド(証券会社)にとって、多額の引受手数料、売買手数料を稼がせてくれる中国企業は最重要顧客です。バイサイド(投資家側)にとって、高成長の見込める中国企業は重要な投資対象です。
バイデン政権を支える主な政治グループは、中国の台頭を抑えることが利益につながるのでしょうが、金融業界や輸出、消費関連産業などは中国の発展こそが利益を得るチャンスと考えています。
もちろん、米国企業にとって米国の単独覇権が崩れるのは決して愉快なことではないでしょう。しかし、冷静に考えて、どうやっても中国の発展を抑えることができないのであれば、自分たちはどうすべきなのか。この部分の考え方の違いが米国国内の各界において、中国に対する対応の違いにつながっているのではないかと思います。
トランプ前大統領の人気は根強く、民主党が支持率において、共和党を圧倒しているというわけでもありません。バイデン政権の基盤は決して盤石とは言えない点についても気にとどめておいた方がよいように思います。