セクター別株式投資のサイクルと下値硬直性の配当貴族銘柄

 シティグループが開発した投資家心理の指標である「パニック・ユーフォリア・モデル」のシグナルは、株価下落を予想する投資家のポジションの量、証券購入のための資金の借入額、商品価格先物などを考慮したものだ。

シティグループが開発した投資家心理の指標である「パニック・ユーフォリア・モデル」

出所:ゼロヘッジ

 過去の例では、「パニック・ユーフォリア・モデル」が上の図のように高い水準にある場合、今後12カ月間の間に100%の確率で株価が下落することを示しているという。

 現在、米国では、空前の財政刺激策や企業活動の再開などにより、力強い経済成長が期待されているにもかかわらず、こうした状況になっている。景気の回復は元に戻ることを意味しているわけではない。現在、アメリカ人の半数が経済的に崖っぷちに立たされており、失業した場合には2カ月分以上の生活費を賄うことができないと回答している。

 シティグループのトビアス・レブコビッチ(2001年からCitiで米国株式戦略のチーフを務める)は、「米国の家計部門の金融資産に占める株式の保有率は50年ぶりの高水準であり、その結果、米国人が投資不足であるとは言い切れない。市場の方向性を変えるきっかけやタイミングを見極めるのは難しいことだが、脆弱(ぜいじゃく)性は存在するため、今はラリーを追いかけるのは賢明ではないと思われる」と、述べている。

景気のサイクルとセクター別株式投資のサイクル
社会主義政策で市場と景気のサイクルが消失しているが…

出所:ゼロヘッジ

 トビアス・レブコビッチは、「私たちは、(人件費や原材料費の高騰を相殺するような)価格決定力を持つ企業や、強固なバランスシートを持ち、平均よりも高い配当利回りを実現している企業に注目することが最善であると考えている」と述べている。

 高配当利回り株として誰もが思い浮かべるのが「配当貴族指数」であろう。配当貴族は、25年以上連続して増配を行っている、S&P500に組み入れられているなどの条件があり、現在65銘柄が選出されている。配当貴族を構成する65銘柄のうち、8割超の銘柄が時価総額100億ドル以上の大型株で、内訳を見ると生活必需品やヘルスケア、資本財セクターの占める割合が高い。

 配当貴族指数はこの10年ほど市場をアウトパフォームしてきたが、2020年からS&P500指数が騰勢を強める中、優位性を発揮することができなくなっている。一方、配当貴族が強みを発揮するのは、相場が大きく下げた時のドローダウンが小さいことであろう。例えば、世界金融危機の2008年にS&P500が4割近く下落したのに対して、配当貴族指数の下落率は22%にとどまった。

配当貴族指数のパフォーマンス

出所:S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス

 次の表は、配当貴族構成銘柄のうち配当利回りの高い順に20社をまとめたものである。トップはAT&T(T)、エクソンやシェブロンのエネルギー企業が上位に入っている。また、コカコーラ(KO)やペプシコ(PEP)、プロクター&ギャンブル(PG)など、日用品の企業も多い。

配当貴族指数銘柄の配当利回りランキング トップ20

出所:石原順

 高配当利回り株へ投資するメリットとして挙げられるのが、リスクの高い株を除外することができるということだろう。配当金を支払う企業は、株主に配当金を支払うための収益またはキャッシュフローを生み出している可能性が高い。つまり、失敗したビジネスを事前に足切りすることができる。また、高い配当金を支払うということは、経営陣が株主還元に積極的だという姿勢も示している。

 超低水準にあった金利が反転し始めるという市場環境の大きな転換点においては、株式市場のボラティリティが高くなる可能性がある。金利の上昇時には高配当銘柄の魅力は相対的に低下するものの、高配当銘柄が持つ下値硬直性は捨て難い。これから市場環境が大きく転換することが想定される場面では、単に利回りが高いということだけではなく、業績の裏付けがあり、財務内容の盤石な企業を選ぶことが重要だ。