※本記事は2017年4月4日に公開したものです。

 本稿では、少し理屈っぽい人向けに、「アクティブ運用は手数料が高くてもいいのか?」、「現実には、どの程度の手数料が正当化出来るのか」という問題について考えてみたい。

 細かな運用の議論が面倒だと思われる方は、

  1. 人間が判断するアクティブ運用に特段の価値があるわけでは無いこと、
  2. 同じカテゴリーなら手数料の安い運用商品を選ぶのがよいこと、

 の2点だけ覚えて、インデックス・ファンド(TOPIXの様な市場の平均に近いものをターゲットとするファンドがいい)に投資しておけばいい。

米国大手運用会社の決断

 先週のニュースだが、米国のある大手運用会社が、株式のアクティブ運用部門を縮小すると共に、運用資産の一部をクオンツ運用(数量分析による運用)を行う部門に移換し、手数料を約半分に引き下げると発表した。

 この運用会社の幹部は、取材に対して、顧客が手数料の安い指数連動型の上場投資信託(ETF)へと向かっており、これが、この会社のアクティブ運用事業にとっては打撃となっていると答えている。「技術進歩とETFの目覚ましい成長が続いていることなどが原因となり、米国では手数料が押し下げられている」というコメントもあった。

「アクティブ運用の手数料は高すぎるのではないか」、「アクティブ運用の効用は高い手数料に見合っていないのではないか」といった疑問が、米国の投資家の間で広く共有されつつあるようだ。

 もっとも、この会社の決定は、「ブランド品を値下げして売ってはいけない」というマーケティングのセオリーに沿っている。アクティブ運用を値下げするにあたって、アナリストが分析してファンドマネージャーが運用の意思決定を行う「人間アクティブ」の運用手数料をそのまま下げるのではなく、資金を「クオンツ・アクティブ」運用に移行して、クオンツ運用の手数料を下げることで、「人間アクティブ」のブランド価値を守ろうとしている。

「人間アクティブ」のアクティブ運用商品は、今後も、現在のような価格(運用管理手数料)を維持できるのだろうか。

「人間アクティブ」と「クオンツ・アクティブ」の比較

 実は、「人間アクティブ」の運用商品と、「クオンツ・アクティブ」の運用商品に、本質的な違いはない。出来上がりのポートフォリオが同じなら、商品の価値は同じはずだ。

 例えば、将棋なら日本将棋連盟、囲碁なら日本棋院の売店に行くと(将棋・囲碁共に筆者の長年の趣味である)、一流棋士の自筆の扇子が2万円くらい、印刷の扇子が2千円くらいで、つまりざっと10倍の価格差で売っており、ちょうど、「人間アクティブ」と「クオンツ・アクティブ」の価格差のような案配だ。

 しかし、扇子の場合は、自筆と印刷で、風合いが異なり、ファンにとっての使用価値も異なるが、商品が「ポートフォリオ」となり、使用価値は「その運用パフォーマンス」だとすると、「人間アクティブ」と「クオンツ・アクティブ」は、結果として持つポートフォリオが同じなら、何ら差は無い。

 筆者は、そのような幼稚な運用を評価しないが、「厳選された30銘柄で運用します!」という国内株式ファンドが2つあるとして、どちらも同じ銘柄・同じウェイト(例えば等金額ウェイト)のポートフォリオを持つなら、運用商品としての価値は同じだ。

 加えて、「人間アクティブ」の場合、銘柄選択の基準と、それ以上に重要な銘柄毎の投資ウェイトを説明しなければならないとした場合に困難が生じるが、「クオンツ・アクティブ」では、使用するデータとポートフォリオ組成のアルゴリズムを示すと、運用プロセスを説明できる。

 例えば、先の「厳選30銘柄のポートフォリオ」であれば、(A)銘柄評価の基準と、(B)評価上位30銘柄を等金額で保有する、というルールを示すと、運用内容を示すことが出来る。

 ところで、仮にこうしたルールを示した場合、例えば「銘柄のウェイト決定と、ポートフォリオのリスクとの関係はどうなっているのか?」という疑問が生じる。

「30銘柄は評価に差があるはずなのに、なぜ同じウェイトなのか?」、「銘柄の組み合わせによってポートフォリオ全体のリスクが変わるはずなのだが、組み合わせが評価されずに、なぜ30銘柄を決めるのか?」、「そもそも、30銘柄よりも銘柄が多くて、なぜ悪いのか? 30銘柄という制限には、運用上の合理性が無いのではないか?」といった当然の疑問が次々に湧いてくる。

 銘柄のウェイトを決めるには、先ず、ポートフォリオ全体のリスクの計測手段を持っていなければならない。また、個々の銘柄のウェイトを決めるためには、ポートフォリオの中で個々の銘柄のウェイトを変えた場合に、ポートフォリオ全体のリスクがどう変わるのかを計測して、これと個々の銘柄への評価(例えば「期待アクティブ・リターン」で評価する)との関係を合理的に組み合わせるのが正しい方法だ。

 現実のポートフォリオは、このような方法でしか、合理的に説明することが出来ない。

「私は、長年の経験と勘で個々の銘柄への投資ウェイトを決めている」とファンドマネージャーが言うのは勝手だが、現実のポートフォリオには個々の銘柄のウェイトがあり、リスクの計測を前提とすると、ウェイトから期待アクティブ・リターンが逆算できる。つまり、「人間の勘で決めている」と強弁しても、何らかの銘柄評価(「アクティブ・リターン」)とポートフォリオのリスクとによってポートフォリオを決めたのと同じ事をやっている訳で、本人が、それを把握していないのだとすると、プロの運用サービスとしては「愚かな手抜き」と言うしかない。

 一方、現実に、ポートフォリオをデータとプログラムによる計算で自動的に決めるのか、人間がデータとソフトウェアを使って決めるのか、は大した問題ではない。

 仮に、「クオンツ・アクティブ」がポートフォリオのリスク計測に基づいてポートフォリオを決め、「人間アクティブ」がリスク計測無しでポートフォリオを決めているのだとすると、前者の方が合理的な説明が可能な分だけ運用サービスとして優れている。個人の勘でウェイトを決める「人間アクティブ」に資金を投じることなど、素人の「おまじない」にお金を払うようなものだ。

 もちろん、「人間がデータとソフトウェアを使って判断する(まともな)運用」もあるので、「人間アクティブ」が常に劣るとは言えないのだが、世間のイメージと現実の運用管理手数料水準の高低関係に反して、大半の「人間アクティブ運用」よりも、リスク計測に基づく「クオンツ・アクティブ運用」の方が高品質な運用なのだ、と言って構わないだろう。

 こちらの方を安売りする決断を下さなければならないのだから、冒頭に紹介したニュースで触れた、米国の大手運用会社としても辛いところだ。

 そして、より大きく、「クオンツ・アクティブ運用」と「インデックス運用」を比較すると、投資家にとって、運用管理手数料が安い分だけ、さらに後者が優れた選択肢である公算が大きい。

「人間アクティブ」の値段は、今や風前の灯火的状況にあるのではないか。