インフォメーション・レシオの評価は難しい!

 さて、前記の計算は、「アクティブ運用の能力を投資家が正しく評価できる」(=インフォメーション・レシオが推定できる)という前提があってはじめて適切なものだ。

 そして、残念なことに、投資家も、プロの投資アドバイザーも、アクティブ運用の正しい能力評価を行うことなど出来はしない。現実には、インフォメーション・レシオの大きさはおろか、プラスなのかマイナスなのかさえも分かりはしない。「プラス0.5」といった数字を現実的に使えると思える場合があるとは思えない。

 過去の運用成績が将来の運用成績と無関係であることは、既に、よく知られている。また、運用会社を「定性評価」しても、将来の運用パフォーマンスを評価する上では、全く役に立たない。

 先ほど、運用者個人の勘に基づく「人間アクティブ」への投資を、「おまじない」にお金を払うようなものだと書いたが、アクティブ・ファンドの運用会社とその商品の販売会社は、「おまじない」を売っているのだが、敢えて彼らを評価するなら、彼らは「おまじない」を売ることのプロだと言える。

 もちろん、玄人が唱える「おまじない」だからといって、現実の運用上何らかの意味があるわけではない。ポートフォリオが説明しにくく散らかっているだけのことだ。

 彼らに付き合うのは、無駄な手数料を払って、彼らを喜ばせることになる。投資家個人が付き合う必要はないし、仲介役のアドバイザーが手数料の高いアクティブ運用を顧客に勧めるとしたら、それは、倫理的に「悪いこと」のカテゴリーに入る行為だろう(金融庁の言う「フィデューシャリー・デューティー」の考え方に照らすとアウトだ)。特定のアクティブ運用を投資家本人が独自に気に入って自分で高い運用手数料を払うことは個人の自由だが、アドバイザーは、根拠がないのに手数料の高いものを勧めてはいけないということだ。

 インデックス・ファンド、ETF、さらに安価なクオンツ・アクティブ運用が売られるに至って、「人間アクティブ」の高手数料にも引き下げ圧力が及ぶようになるだろう。

 しかし、金融・運用業者のビジネス努力を甘く見てはいけない。彼らは、目先を変えた新しい稼ぎ方を試みるにちがいない。一般投資家に対して、予め将来に向けた注意をしておくなら、将来、パフォーマンス連動の運用手数料に引っ掛からないことが重要だと申し上げて置こう。

【コメント】

 本稿では「アクティブ運用のスキルを顧客側が評価できた場合に」という(実は)非現実的な仮定を置いた場合に、どの程度までのフィーが妥当なのかについて計算している。成功報酬の手数料などではよく起こることだが、仮にアクティブ運用のスキルを好意的に評価できる場合であっても、妥当な額以上の手数料を支払っているケースが少なくない。

 文末にも記したように、現在、趨勢としてアクティブ運用に対する評価は逆風気味であるが、運用業界はフィーを取ることが出来る「何か」を捻り出そうとするだろう。2017年時点のこの記事では成功報酬を怪しいと見ているが、2021年の現在「ESG投資」を追加しておく。英米のメディアの中には、大手運用会社がESGに力を入れるのは「インデックス・ファンドよりも高いフィーを取りたがっているからだ」と(正しく)報じる社が出始めている。

 筆者は、インデックス・ファンドにも弱点があるので、人間が行うものも含めて低廉なフィーの良心的なアクティブ運用を提供することが、投資家のためにも、運用業界のためにも「いいこと」であるように思う。アクティブ運用の「本来のコスト」はそれほど高いものではない。

(2021年5月14日 山崎元)