アクティブ運用の値段の計算式

 以下、簡単な計算を行う(数式嫌いの方は飛ばし読みして頂いて結構です)。

 原則として、好ましい順に、「インデックス運用」>「クオンツ・アクティブ運用」>「人間アクティブ」という評価序列があるとしても、仮に、「これは有望ではないか」と思うアクティブ運用があった場合に、幾らまで追加的な運用管理手数料を払うことが出来るだろうか。

 仮に、アクティブ・リスク(標準偏差)に対してI倍のアクティブ・リターンが期待できるとして(Iは「インフォメーション・レシオ」と呼ばれる。この場合、プラスの定数としよう)、投資家がこのアクティブ運用を使うことの効用は、ポートフォリオが取るアクティブ・リスクの大きさによって変動する。アクティブ・リスクをσで表し、投資家の効用(U)が、以下のような関数で表せるとしよう。λはリスクに対する投資家のペナルティの大きさを表す「リスク拒否度」だ。

 【投資家の効用】U=Iσ−λσ²

 アクティブ・リスクがゼロなら、アクティブ・リターンが生じないので、投資家の効用はゼロであり、アクティブ・リスクを増やすと効用はしばらく増えて行く。しかし、アクティブ・リスクをどんどん拡大していくと、アクティブ・リターンの期待値が上昇するプラス効果よりも、アクティブ・リスクが拡大することのマイナス効果が大きくなってしまう。

 先の効用関数をσで微分した式をゼロと置いて、最も効用が高くなる、「丁度よい大きさのアクティブ・リスク」を求めると、

 σ=I/2λ

 の時に、効用が最も大きくなることが分かる。

 例えば、インフォメーション・レシオが0.5(=I)だとして、アクティブ・リスクにリスク拒否度が0.05(=λ)だとすると、アクティブ・リスク(ベンチマークに対する推定トラッキング・エラー)が5%の時に、投資家のポートフォリオの効用が最大になる。

 そして、σ=I/2λ を効用関数に代入すると、「最適なアクティブ・リスクを取る時の効用」が計算できる。

 U=I・I/2λ−λ(I/2λ)²=I²/4λ

 I²/4λがその答えだ。ここで、最適なアクティブ・リスクを取る場合の期待アクティブ・リターンは、I・σ=I²/2λとなっており、丁度半分だが、これが投資家がアクティブ・ファンドに払うことが出来る手数料の上限だ。

 先の例、即ち、リスク拒否度が0.05の投資家がインフォメーション・レシオ(I)0.5と評価したファンドに投資する場合、アクティブ・リスクの最適水準は5%、アクティブ・リターンの期待値は2.5%で、その状態の効用は、リスク・ゼロで1.25%のリターンを稼ぐことが出来る状態と等しい、という計算になる。

 この場合で、アクティブ運用に追加的に払うことが出来る手数料の上限は、年間1.25%だということになる。もちろん、投資家側から見ると、運用手数料がこれよりも小さければ、それに越した事はない。

 ちなみに、最適値よりもアクティブ・リスクを増やすと期待アクティブ・リターンは増えるが、そのことのプラス効果よりも、アクティブ・リスクが拡大することのマイナス効果の方が大きくなる。例えば、先の例なら、アクティブ・リスクの大きさが5%を超えると、アクティブ運用の効用は低下し始めて、10%に達したところでゼロになる。