ドル/円は「景気」と「インフレ」と「金利」のバランス

 4月の米小売売上高は、前月比0.00%。予想(+1.0%)を下回りました。米国政府からの給付金で懐が豊かになったところに移動制限の緩和が始まり、「リベンジ消費」ブームが期待されていたのですが、残念な結果となりました。とはいえ、前回が+9.8%とかなり強かったため、今回はその反動がでたようです。

 もうひとつは、FRBも注目していた景況指数のミシガン大学消費者態度指数。5月速報値は予想90.4に対して、82.8。しかし、見出しの数字は低下する一方、消費者の予想インフレ率は大きく上昇していました。調査によると消費者の1年後の予想インフレ率は4.6%。前回の3.4%からさらに上がっていました。FRBは「インフレは一過性」の立場で、夏に物価が上昇しても年末には収束するとの予想ですが、米国の消費者の多くはそれと反対の意見を持っているようです。

 物価上昇は、家計にとって実質収入や購買力の低下につながるため、消費行動が低下するのが一般的です。しかし、米国ではコロナ中に過去最高水準まで積み上がった貯蓄残高とコロナ後の繰越需要によって、物価が上昇しているにもかかわらず、個人消費が強まっています。物価上昇のなかでの需要増という組み合わせは、インフレ心理をさらに煽るおそれがあります。

 別の懸念はスタグフレーション。スタグフレーションとは、景気停滞を意味する「スタグネーション(stagnation)」と「インフレーション(inflation)」を組み合わせた合成語で、景気が後退していく中でインフレが同時進行する現象。

 通常、景気停滞は、需要が低下することからデフレ(物価下落)要因となりますが、原油価格の高騰などによって不景気で賃金が上がらないなかでも物価が上昇することがあります。ミシガン大学消費者態度指数が示している、景気見通しの低下と予想インフレの上昇は、スタグフレーションの発生リスクを暗示しているようです。