5.「投資」と「投機」とを区別する。資産形成に有利なのは投資の方だ。

 一般に「ハイリスク・ハイリターンの原則」と呼ばれるのは、リスクが大きな資産は平均的なリターンが大きくなるよう市場で価格が形成されるということなのだが、この対象になるのは、株式や債券、不動産への投資のように、生産活動にお金(≒資本)を提供する際の価格だ。

 他方、FX(外国為替証拠金取引)や商品相場、暗号資産の価格などのように、市場で売り手と買い手が「ゼロサム・ゲーム的」に将来の価格を当てる競争をする構造のマーケットでは、「ハイリスク・ハイリターンの原則」は働かない。商品先物の説明などで、「商品先物はハイリスク・ハイリターンです」といった表現を見ることがあるが、適切ではない。レバレッジが掛かると損益の振れ幅が大きくて確かにハイリスクではあるが、「相場が当たった場合のリターンが大きいこと」だけでは、「ハイリスク・ハイリターンの原則」に該当しない。「ハイリスク・ハイリターンの原則」が当てはまるためには「平均的なリターンが大きくなる」ことが期待できなければならない。

 筆者は、生産活動に資金を投じて「ハイリスク・ハイリターンの原則」が働くように資産価格が形成されると期待できる行為を「投資」、ゼロサム・ゲーム的な構造になっていて、資金を生産活動に投じるわけではなく、リスクがあっても平均的なリターンが高まるわけではない行為を「投機」として区別することにしている。

 投機も正当な経済活動であり、リスクヘッジなどの役に立ってもいるので、経済倫理的に「悪い」とは微塵も思わないが、投機のリスクを取ることは、長期的な資産形成には有利ではない。有利なのは、リスク・プレミアム(リスクテイクを補償する追加的なリターンのこと)が期待できる投資のリスクの方だ。

 この区分では、投資に分類されるのは、株式、債券、不動産などで、投機にはFX、外債投資や外貨建て保険の為替リスク、商品相場、暗号資産などが該当する。

6.税制上有利な「お金の置き場所」を有効に利用する。

 2.で述べたように、コストはリターンの足を引っ張るものなので、できるだけ低く抑えたい。例えば、売買コストの節約のために、運用対象商品の入れ替えはできるだけ少なく抑えたい。

 運用における税金は、収益が発生したときに取られるが、これもコストの一種であり、なるべく低く抑えたい事情は同様だ。

 税金を抑える手段としては、例えば、確定拠出年金(企業型の確定拠出年金が利用できる場合もあるし、iDeCo[イデコ:個人型確定拠出年金]もある)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)、つみたてNISAのような、運用益に対して非課税になる「お金(=金融資産)の置き場所」はできるだけ有効に利用したい。

 企業型確定拠出年金やiDeCoは運用期間中の運用益非課税に加えて、掛金が所得控除される大きなメリットがあるので、課税される所得がある人はなるべく大きく使いたい。一方、原則として60歳迄引き出せない点がデメリットだ。

 NISA、つみたてNISAも適宜利用したい制度だ。こちらは、途中換金が可能だが、換金すると再投資を非課税の枠内で行うことができないので、注意が必要だ。スイッチングが可能な確定拠出年金よりも「将来入れ替えたくなる可能性が小さい資産」を選ぶことが重要になる。一般NISAでは個別株投資が可能だが、近い将来売りたくなる可能性がインデックス・ファンドよりも大きいので、多くの場合投資対象として不適切だ。

 確定拠出年金や各種NISAでは、運用益が非課税であることを有効に利用し、且つ余計な手数料を支払わない運用対象選択が重要だ。

 端的に言って、外国株式(先進国株式又は全世界株式の日本除き)と国内株式のインデックス・ファンドで手数料が低廉なもの以外に合理的な選択肢がない場合が殆どだ。

 アクティブ・ファンド、バランスファンド(ターゲットイヤー型を含む)、預金や生命保険などの元本確保型商品、などは何れの器にあっても不適切だ。

7.投資の3原則(長期投資・分散投資・低コスト)から判断する。

 自分の投資の意思決定について迷った場合、「長期投資」、「分散投資」、「低コスト」の3原則から可否を判断するといい。

 投資は資金を経済活動に参加させてリターンの獲得を目指す行為だが、長い時間「参加」させなければ、大きなリターンが望みにくい。加えて、現在の税制では、売却益を出すと課税されるので、「売り買いせずにじっと持つ」という意味の長期投資も長期的なリターン獲得の上で重要だ。

 また、分散投資は、投資家自身の努力(あるいは選択)でできるリスク削減行動なので、こちらも重要だ。詳しい説明は別の機会に譲るが、株式投資で言うと、少数の個別銘柄への投資と、銘柄数の多いインデックス・ファンドへの投資は、金融論的に見て価値が「大差」で後者が勝る。

 尚、分散投資にあっては、投資対象の中身が実質的に分散されていることが大事であり、例えば、似たような投資対象の投資信託の「商品」の数を分散することには殆ど価値がない。

 低コストの重要性は、2.で強調した通りだ。

 長期で資産を持ちきるためにはリスクを抑えた分散投資が必要だし、長期で持ちきると売買のコストを抑えることができる、といった理由で、これらの3原則は相互に補完的に関係している。