「ESG投資のパラドックス」

 さて、ESGに着目した投資は儲かるのか?

 この問題を考える際に、データに頼るのはあまり賢くない。ベンチマークからずれたポートフォリオを持って一定期間運用すると、「勝ち・負け」は必ずある。だが、今後の運用を評価するためには、ある期間とサンプルを採ったデータが「勝ち」に偏っているだけでなく、今後もそうした傾向が続くことがもっともらしいと思える理由が必要だ。

 例えば、「環境」対策への投資に相対的に熱心だと評価された企業の株式を持って、市場平均よりも高いパフォーマンスを得るためには、例えば、(1)現時点での環境への投資がその企業の将来の収益(又はコストの節約)に大いに有効であり、(2)その有効性が一般的な投資家から現在過小評価されていて、(3)将来その過小評価が正される公算が大きいと考えられる、といったストーリーに信憑性が必要だ。

 ESG投資が同時に良いアクティブ運用であるための条件はなかなか複雑だ。

 また、次のような「ESG投資のパラドックス」とでも名付けたくなる議論が成立する。

(1)ESGが企業価値評価の点で重要な要素だとしよう。

(2)では、現在、ESGの評価が高い会社と、ESGの評価が低い会社を比較した場合に、将来の投資リターンが高いのは「評価が低い会社」の評価が改善する時だろう。

(3)従って、ESGが評価の視点として重要なら、むしろESG評価の低い会社にこそ儲かる投資のチャンスがある。

「屁理屈」のように感じるかも知れないが、投資の考え方としては案外強力だ。ESGの状況が悪い会社が、それをそのまま放置し続けると信じる理由は無い。

 また、社会としてESGが大切なら、現状ではESGの評価が高くない会社の改善にこそ効果があると考えることにも一理あるだろう。

「ESG劣等生」的な会社の株式を買って、株主として経営者との対話を通じて、ESGの改善を促すことに成功すると、企業の業績も良くなり、社会的にも望ましい変化が起こり、投資した株主も儲かることが期待できる。