「A+M+E思考」の意味

 投資家は、自分が持っている、或いは買おうとしている銘柄の「A」、「M」、「E」について具体的な見当が付いているのでなければならない。厳し過ぎるかも知れないが、本当の話だ。

 具体的に答えられない銘柄を持っているのだとすると、「リターンもリスクも分からない銘柄を、ただ儲かることを祈って持っているにすぎない」。チャートを見ている場合ではないし(チャート分析は役に立たない「占い」だと筆者は思うし、年金運用などの世界の常識でもある)、まして経営者の批評をしている場合でもない(投資家が経営者の評価を出来ると思うのは、何と傲慢な勘違いだろう)。

 リターン、リスクを考えずに投資するのはまずい、と先ずは思うことが重要だ。

 では、どのように考えるか。

 先ず、分かりやすい(正確には「割り切りやすい」)のは「M」だ。「自分が持っている株式は、市場全体の上げ下げの影響を大きく受けるだろうし、市場のリターンの変動は大きく予想は難しいが、平均的なリターンは機関投資家の運用計画の期待リターンから考えて、〇%くらいだろうし、この要因から発生するリスクは××%くらいだろう」と考えたらいい。例えば、期待リターンが5%で、リスクが20%だ。

 次に分かりやすいのは「E」だろう。値動きの激しさや、業態による収益変動の大きさなどから、「地味で安定的=20%」、「(値動きが)いくらか賑やか=30%」、「かなり派手=40%」などと考えるといい。

 計算が億劫でない人は、大まかに株価の変化率をリターンとして、トータル・リスクを分散で計算してみて、そこから同期間の市場平均のリターン変動の分散を差し引き、その結果の平方根を計算すると個別銘柄の標準偏差を概算できる。

 慣れてくると、これくらいの値動きだから、「E」にはこの程度のリスクがあるはずだ、と大まかに分かるようになるだろう。

「A」を“リアルに”考える

 さて、難しいのは「A」だ。ある銘柄を持つ、或いは買おうとするということは、多くの場合、その銘柄が市場平均よりも高いリターン(アクティブ・リターン)を生んでくれると期待するからだろう。では、どの程度の大きさの「A」なのか。

 例えば、適正と思われる株価よりも「2割安い」と思う株価のある銘柄に投資しようとしている場合に、投資家は「A」をどう考えたらいいのだろうか。

 仮に、現在、株価が2,000円の株を割安だと判断するアナリストのレポートに完全に賛同し、そのレポートの「目標株価」が2,500円だとしよう。「確かに2,500円くらいが妥当だ!」と読者は思ったとしよう。

「割安は1年で修正される」ことが確実ならA=+25%ということになるが、市場が割安に気づいてこれを修正するには時間が掛かるだろう。例えば、平均5年で割安状態が解消すると思うなら、A=+5%となる。これでも、かなり大きく魅力的な数字だ。修正に要する期間が10年でも、それが「確実」ならA=+2.5%であり、それでもかなり良い数字だ。

 しかし、率直に言って、(誰のであっても、自分のであっても……)投資家の判断が正しいとは限らない。見落としている情報があるかも知れないし、判断の方法が間違っているのかも知れない。長年株式投資に関わっている方ならご存知だろうが、相対的な割安株の多くは、かなり昔から割安株だったし、残念ながらその後も大きな確率で割安株であり続ける(但し、それでも総合的に魅力的な場合は多々あるが)。

 現実的な投資家は、「A」に関する自分の判断が正しい確率がaで、事態がむしろその逆である確率が(1−a)ならどうなのか、と自問してみる必要がある。仮に、自分の判断が正しい場合と間違っている場合が「6勝4敗」ならどうか。

 確実ベースでの「A」の期待値は、(6−4)÷10=0.2で修正されなければならない。「5年で割安が修正される」前提の年率+5%は年率+1%にダウングレードされるし、「10年で修正」の2.5%は年率+0.5%と評価しなければならない。特に後者の場合は、保有期間が短いと取引の手数料コストに負けてしまうかも知れない。

 そして、さらに追い打ちを掛けて恐縮だが、「6勝4敗」という自己評価は「相当に(たぶん非現実的に)楽観的で強気な数字」だ。市場で取引されている銘柄の平均的なAはゼロだし、市場に参加している投資家が得るAの平均もゼロなのだ。

「プラスのA」を獲得することは甘くない。プロのファンドマネージャーも、平均的には「マイナスのA」なのだ。