この5カ月、金相場は複数のテーマ起因で下落するも、底割れしていない。

 ワクチン開発成功後の、世界全体の新型コロナウイルスの感染状況を確認しました。現実は非常に厳しい、という印象を受けたのは筆者だけではないと思います。

 こうした社会情勢の中、金(ゴールド)価格は、以下のとおり、3月初旬にかけて下落しました。ワクチン登場から3月初旬までの下落について考えられる要因は、以下のとおりです。

図:NY金先物(中心限月 日足 終値) 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグより筆者作成

・“代替資産”起因 (株高→金安)
 ワクチンが登場した11月、市場に存在する期待を巨大に膨れ上がらせる主要国の“金融緩和”が強化されたことや、バイデン氏が米次期大統領になり、国家間のパワーバランスが(少なくとも前政権よりは)安定するとの期待が生じたことなどで発生した、期待先行相場“バイデン・ワクチン相場”による株高が一因とみられます。

・“代替通貨”起因 (ドル金利上昇・ビットコイン高→金安)
 その他、米国の金利上昇により、金(ゴールド)の“無国籍通貨(ドルや円などの法定通貨と異なる、国の信用を裏付けとしない通貨)”としての魅力が低下したことや、同じ“無国籍通貨”という特徴をもつビットコイン価格が急上昇したことなどにより、通貨としての金の魅力がそがれたことも一因に挙げられます。

・“有事のムード”起因 (有事ムード後退→金安)
 また、90%超の予防効果があるとされるワクチンが登場したことで、2020年3月に新型コロナがパンデミック化して以降、およそ8カ月間、新型コロナが振りまき続けた“不安”が一時的に遠のき、金の“不安拡大時の逃避先”としての魅力が低下したことも、一因に挙げられます。(“安全資産”という単語は、筆者はなるべく用いないようにしています。金投資がリスクのない投資だと誤解を与えかねないためです)

 おおまかに3点、ワクチン登場から3月初旬までに発生した金価格の下落について、述べました。株高は“代替資産”の側面で金の下落要因、ドル金利上昇・ビットコイン高は“代替通貨”の側面での金の下落要因、ワクチン登場は“有事のムード”の側面の金の下落要因と言えます。

 3つの側面(テーマ)が一様に下落を示したことが、この間、金(ゴールド)相場が下落した背景とみられるわけですが、3月中旬以降は、状況が異なり、強気ととらえられる要素が出始めています。金相場が“1,700ドル底割れ”を起こしていない点です。1,700ドルをキープする力はどこから来ているのでしょうか。