ワクチン登場から5カ月で“患者数3倍”の衝撃。

 2020年11月9日、90%超の予防効果があるとされる、新型コロナウイルスのワクチンが開発されたと報じられました。WHO(世界保健機関)が同ウイルスを“パンデミック”(世界的な大流行)としたのが2020年3月でした。それから8カ月後、“ワープスピード”と呼ばれた超短期のワクチン開発の成功に人々の多くは安堵(あんど)しました。

 ワクチン開発成功の報道から5カ月が経過した先週まで、新型コロナの感染者数はどのように推移したのでしょうか。以下は、世界全体の同ウイルスの推定患者数です。

図:世界の新型コロナウイルスの推定患者数(週平均) 単位:百万人
※患者数は感染者-
回復者-死亡者で計算

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 患者数の増加傾向は続いています。ワクチン開発成功が報じられた2020年11月上旬の世界の新型コロナウイルスの推定患者数は、およそ1,509万人(感染者4,821万人-回復者3,188万人-死亡者122万人)でした。

 先週時点の推定患者数はおよそ4,600万人(感染者1億3,306万人-回復者8,344万人-死亡者288万人)でした。ワクチン開発成功後、推定患者数はおよそ3倍になったわけです。まだワクチンが世界中に行きわたっていないことは明白です。

 また、以下のグラフは、新規感染者と新規回復者から計算した、新型コロナ感染症における人の出入り(フロー)を示しています。プラスの値は感染者数の増加、マイナスの値は回復者数の増加を意味します。

図:新型コロナウイルス感染症における人の出入り(週平均ベース) 単位:百万人
※感染者数-回復者数で計算
※死亡者数(全体の2%強)を除く

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 ワクチン開発成功後も、毎週、100万から200万人程度、感染者数が増えています。現在、感染力が強いとされる変異株の拡大や、スーパースプレッダーと呼ばれる感染を拡大させやすい人の存在などが、課題とされていますが、これらの課題を含め、新型コロナウイルス感染症に対し、今のところ、データ上、ワクチンが効果を発揮しているとは言い難いように、見えます。

 90%超の予防効果があるとされるワクチンが効果を発揮する(具体的に、人の出入りがマイナスになる)までには、まだまだ時間が必要だと考えられます。

この5カ月、金相場は複数のテーマ起因で下落するも、底割れしていない。

 ワクチン開発成功後の、世界全体の新型コロナウイルスの感染状況を確認しました。現実は非常に厳しい、という印象を受けたのは筆者だけではないと思います。

 こうした社会情勢の中、金(ゴールド)価格は、以下のとおり、3月初旬にかけて下落しました。ワクチン登場から3月初旬までの下落について考えられる要因は、以下のとおりです。

図:NY金先物(中心限月 日足 終値) 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグより筆者作成

・“代替資産”起因 (株高→金安)
 ワクチンが登場した11月、市場に存在する期待を巨大に膨れ上がらせる主要国の“金融緩和”が強化されたことや、バイデン氏が米次期大統領になり、国家間のパワーバランスが(少なくとも前政権よりは)安定するとの期待が生じたことなどで発生した、期待先行相場“バイデン・ワクチン相場”による株高が一因とみられます。

・“代替通貨”起因 (ドル金利上昇・ビットコイン高→金安)
 その他、米国の金利上昇により、金(ゴールド)の“無国籍通貨(ドルや円などの法定通貨と異なる、国の信用を裏付けとしない通貨)”としての魅力が低下したことや、同じ“無国籍通貨”という特徴をもつビットコイン価格が急上昇したことなどにより、通貨としての金の魅力がそがれたことも一因に挙げられます。

・“有事のムード”起因 (有事ムード後退→金安)
 また、90%超の予防効果があるとされるワクチンが登場したことで、2020年3月に新型コロナがパンデミック化して以降、およそ8カ月間、新型コロナが振りまき続けた“不安”が一時的に遠のき、金の“不安拡大時の逃避先”としての魅力が低下したことも、一因に挙げられます。(“安全資産”という単語は、筆者はなるべく用いないようにしています。金投資がリスクのない投資だと誤解を与えかねないためです)

 おおまかに3点、ワクチン登場から3月初旬までに発生した金価格の下落について、述べました。株高は“代替資産”の側面で金の下落要因、ドル金利上昇・ビットコイン高は“代替通貨”の側面での金の下落要因、ワクチン登場は“有事のムード”の側面の金の下落要因と言えます。

 3つの側面(テーマ)が一様に下落を示したことが、この間、金(ゴールド)相場が下落した背景とみられるわけですが、3月中旬以降は、状況が異なり、強気ととらえられる要素が出始めています。金相場が“1,700ドル底割れ”を起こしていない点です。1,700ドルをキープする力はどこから来ているのでしょうか。

やはり材料の俯瞰(ふかん)は必要。同一テーマでも方向性が切り替わることがある。

 足元、金市場の周辺を見渡せば、複数の主要株価指数が記録的な高値水準維持していたり、ドル金利が上昇したりしています。これらは、金の重要テーマ、“代替資産(株の代わり)”および“代替通貨(ドルの代わり)”における、金相場の下落要因です。

 金相場が複数のテーマから下落圧力を受けている中、節目である1,700ドルをキープできているのは、短期売買に主眼をおいた投資家たちの中に1,700ドルの節目まで下落したら買いたい(値ごろ拾いの新規買い、売りポジションの損切り買い)、と考えている人がいることや、金相場の6つの重要テーマの中の、短・中期のテーマの一つ“有事のムード”起因の上昇要因が底流していることが背景にあると、筆者は考えています。

図:足元の金市場の変動要因(イメージ)

出所:筆者作成

 金市場を取り巻くテーマは、短中期で3つ、中長期で3つ、合計6つあり、日々目にする関連するニュースは、6つのどれかに分類されると筆者は考えています。これらのテーマが金の価格動向の方向性に与える影響については、“1テーマ1方向”の原則はありません。つまり、状況に応じて、1つのテーマ内で関連する材料の影響力が相殺され、その結果、上昇要因にも下落要因にもなり得るわけです。

 上図のとおり、2020年11月以降、ワクチンの流通拡大が世界に安心感をもたらしたことで、短中期的なテーマの一つ、“有事のムード”は下落要因と目されました(不安後退→逃避先需要減少)。しかし、2021年3月中旬以降は、ワクチンが流通しても感染者が増加し、不安感が強まったことで、当該テーマは上昇要因と目されます(不安拡大→逃避先需要増加)。

 短期投資目的の投資家たちの下支えや、“有事のムード”における上昇圧力などが、金相場が一定の下落圧力を受け続ける中でも、節目の1,700ドルをキープできている要因であると、筆者は考えています。

コロナ撲滅から“共存”に舵をきった人類の選択は、金相場の超長期の下支え要因。

 足元、部分的には、患者数が減少したり、経済活性化推進を一時的に停止したりしている国や地域はあるものの、全体的には、新型コロナの患者数の増加と、主要国の経済の活性化策推進は、同時進行しているといってよいと思います。筆者はこのような全体的な動きは、人類が新型コロナと共存することを選択しつつあることの証であると感じています。

 人類は、新型コロナのパンデミック化後しばらく、“コロナの終息を目指す”ことを大目標とし、自粛をしたりワクチン開発をしたり金融緩和を行ったりしていました。しかし、ワクチンを手にした現在、ワクチンがコロナをなかったことにしてくれる魔法の道具のようなイメージが広がり、“ワクチンがあるから経済活性化策を同時進行できる”といったムードが広がりつつあると、感じられます。

 このような、“ワクチンがあるからコロナと共存できる”という考え方は、コロナの存在を一定程度、容認するものです。つまり、撲滅は目指さず、ワクチンを武器にうまく付き合うことに主眼が置かれ、終息宣言は目指さない方針であると考えられます。コロナとうまく付き合う、コロナが身近にある生活を受け入れることは、一定程度の不安が常につきまとうことを受け入れることに他なりません。

 撲滅を目指さず、終息宣言が出ない以上、数年でも数十年でも、大小あれどもコロナ起因の不安は続くわけです。このような“不安の底流”は、6つのテーマの一つ“有事のムード”を長期的に存在させるきっかけになり得ます。

 目に見える、目立つ、戦争などの有事は、金相場を短期的に大暴騰させる要因になり得ますが、人類が選択しつつある“コロナとの共存(≒終息宣言の放棄や一定の不安の容認)”という選択は、息の長い、じわじわとした、金相場の下支え要因になり得ると考えられます。

 コロナ起因の不安は、純金積立などの超長期的を前提とした運用はもとより、短期投資においても、現在のように節目で底堅く推移する値動きとなっている場合、ある程度、価格の下支え要因になっている可能性があるため、金相場に携わるすべての人にとって、要注目だと考えています。

図:6つのテーマが与える金相場への影響(イメージ)

出所:筆者作成

[参考]貴金属関連の具体的な投資手法

楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
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GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

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ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
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三菱UFJ純金ファンド

外国株

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AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)