遠回り続出で海上運賃が上昇すれば海運株がさらに高騰する可能性も

 スエズ運河の場所を確認します。アラビア半島とアフリカ大陸の間に位置する紅海と地中海を結ぶ長さ200キロメートル弱の運河です。一定の規格を満たせば、大型タンカーでも航行できると言われています。

図:欧州とアジアを結ぶ航路 

※ 平均速度16.43ノットで航行した場合
出所:各種報道より筆者作成

 足元、コンテナが不足するほど海運に需要があると報じられていますが、この点をもとに考えれば、今回のスエズ運河の件は、航空便で代替できる貨物を除けば、同運河を通過するはずだった貨物の多くは南アフリカの“喜望峰”を迂回して運ばれる可能性があります。輸送需要が旺盛であるため、運ぶことを断念することは考えにくいでしょう。

 また、レポート執筆時点では、エジプトの大統領が、タグボートでの曳航を断念し、積荷を一時的に下ろす“軽量化作戦”に移行するよう指示したと報じられています。座礁した大型船から一時的に積み荷を降ろすためには、相応の時間とお金と労力がかかります。

 正常に航行できない期間が長期化する懸念が浮上しているわけですが、問題の長期化は、代替手段を用いる期間が長くなることを意味します。つまり、スエズ運河の航行不能状態が長期化すれば、代替手段で最も有望視される、“喜望峰ルート”での輸送が増加する可能性があります。

 海上輸送のコストは、要衝の通行料や保険料、その時の原油価格など、さまざまな要素で計算されていますが、“距離”がその額を左右する大きな要因と考えられます。距離が遠ければ、使用する燃料代が増えたり、日数がかさみ保険料が増えたりするためです。

 今回の代替手段のメインとみられる“喜望峰ルート”(欧州・アジア間)は、およそ2万5,000キロメートルと言われています。“スエズ運河ルート”は、およそ1万8,500キロメートルと言われているため、代替手段を用いることで本来の1.3倍強の距離を航行しなくてはならなくなります。日数の面では、およそ1週間余計にかかる(1.3倍)と言われています。

 スエズ運河の通行料も関わるため一概に言えませんが、それでも、距離と日数が1.3倍かかることを考えれば、代替手段を講じた場合のコストは、本来かかるコストよりも高くなる可能性があります。海運需要が旺盛であることを考えればなおさらです。

 このため、海運コストの総合的な指数である“バルチック海運指数”が今後、上昇する可能性があると筆者は考えています。同指数は海運業界がどの程度活発かと示す指標と考えられることがありますが、厳密には、ケープサイズ(喜望峰やホーン岬を経由する大型貨物船)40%、パナマックス(中米のパナマ運河を通過できる最大サイズの貨物船)30%、ハンディマックス(ばら積み船※のうち5万トン前後の貨物船)30%の比重(2018年3月時点)で計算された“運賃の指数”です。

※ばら積み船:穀物・鉱石などの梱包されていない荷物を輸送する貨物船。

 バルチック海運指数(運賃の指数)と、海運関連企業の株価は、この数カ月間、同じような動きをしています。海運需要が旺盛であること、(その他のコストが変わらなかった場合)運賃が上昇することで、これらの企業の収入が多くなる期待が増幅することなどが、要因に挙げられます。

図:国内外の海運株と海運指数 2020年11月2日を100として指数化
 

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 また、以下のとおり、上図に示した日本郵船(9101)、フロントライン(FRO)以外の、国内外の海運株も、座礁事故発生直後から、反発色を強めています。

図:国内外の海運株の騰落率

  銘柄名 2021年3月23日 2021年3月26日 騰落率
国内株 日本郵船(9101) 3900.00 3975.00 +1.9%
商船三井(9104) 4045.00 4080.00 +0.9%
川崎汽船(9107) 2548.00 2558.00 +0.4%
外国株 フロントライン(FRO) 7.27 8.09 +11.3%
ユーロナブ(EURN) 8.73 9.56 +9.5%
スター・バルク・キャリアーズ(SBLK) 13.88 15.125 +9.0%
ゴールデンオーシャングループ(GOGL) 6.875 7.165 +4.2%
スコーピオ・タンカーズ(STNG) 18.2 19.77 +8.6%
出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 運賃の上昇は、エネルギーや穀物、鉱石のコスト上昇にもつながるため、スエズ運河での座礁事故起因の運賃上昇が起こった場合、コモディティ(商品)価格の上昇というシナリオも、想定しなければならないかもしれません。しばらくは、同事故関連のニュースを注視する状況が続くと、考えらえます。

[参考]具体的な原油関連の投資商品

国内ETF/ETN

WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039

投資信託

UBS原油先物ファンド

外国株

エクソンモービルXOM
シェブロンCVX
トタルTOT
コノコフィリップスCOP
BPBP