先週、原油相場は上下最大約7%の記録的な乱高下を演じた

 以下のグラフは、スエズ運河で大型船の座礁事故が起こった3月23日(火)から26日(金)までの、主要株価指数、通貨、コモディティ(商品)、暗号資産(仮想通貨)における主要25銘柄の、最大変動率をランキング形式で示しています。

図:ジャンル横断変動率ランキング

変動率は3月23日(火)~26日(金)の最高値と最安値から算出
出所:マーケットスピードⅡなどより筆者作成

 1位ビットコイン(13.4%)と2位のイーサリアム(12.5%)は暗号資産です。もともと変動率が高い傾向がある銘柄です。3位のマザーズ指数(8.1%)は月曜日に付けた高値から大きく反落したため、変動率が高くなりました。

 4位に原油がランクインしました。原油はこの間、“波”を打っていました。

図:WTI原油先物の価格推移(期近 日足 終値) 単位:ドル/バレル
 

出所:ブルームバーグより筆者作成

 この間の原油市場は、マザーズ指数のようにトレンドが発生したわけではなく、大きな変動率をともなったレンジ相場だったわけです。強い上昇要因と強い下落要因に挟まれ、日替わりで、上昇と下落を繰り返したと、言えます。

 スエズ運河の座礁事故のみが、原油相場の変動要因ではありませんが、スエズ運河が主に欧米とアジアを結ぶ世界屈指の交通の要衝であり、運河周辺では石油を積載したタンカーが複数、停泊しているとの報道を受けて、原油相場は上下しているとみられます。とはいえ、原油相場は上昇一辺倒でも下落一辺倒でもありません。なぜなのでしょうか?

供給不安には3つの型がある。今回の供給不安は“川中型”

 原油や貴金属、穀物などの資源や一次産品などと呼ばれるものが生産者の手を離れ、ガソリンや指輪、パスタなどの最終商品となって消費者の手に届くまでの流れを、川の流れに例え、川上・川中・川下と、表現することがあります。

図:川上・川中・川下のイメージ
 

出所:筆者作成

 上図の通り、今回のスエズ運河での事故は“川中”で発生した出来事であることが分かります。今回の供給不安は、油田の爆発や鉱山労働者のストライキ、天候不順による不作などをきっかけとした供給不安ではありません。また、中国の旺盛な需要やイベントやブームを背景とした需要増加をきっかけとした供給不安でもありません。

 川中部門での障害は、川上部門での“モノ余り”と川下部門での“モノ不足”を同時に引き起こします。今回のスエズ運河の件で、例えばサウジなどの主要産油国で“モノ余り”が起こったり(下落要因)、オランダのロッテルダム港周辺で石油製品の在庫が減少したりする可能性がある(上昇要因)、ということです。

 高い変動率を伴ったレンジ相場が発生したのは、同時に発生した上昇要因と下落要因に市場がどう反応すればよいか決めあぐねたことが一因に挙げられると、筆者は考えています。

数カ月単位で見れば、原油相場は強気と考える

 先週、原油相場はスエズ運河に関わる報道を一因として、日替わりで大幅上昇・大幅下落を繰り返しました。短期的にみれば、今後も刻々と変化する同報道を受けて、高い変動率を伴って上下する可能性があります。事態解決に時間がかかればかかるほど、生産地でのモノ余りと、消費地でのモノ不足が同時に深刻になるためです。

 一方、数カ月単位のレベルで原油相場の変動要因を俯瞰(ふかん)すれば、以下のようになると筆者は考えています。今回のスエズ運河の件(流通経路における障害)は、上昇要因および下落要因の一部であると言えます。

 全体的には、米国の原油生産量の回復が鈍いこと、OPECプラスが減産を実施していること(プラスの実態)、そして、株価が堅調推移していること、金融緩和が続いていること、ワクチン流通が拡大していること(プラスの思惑)などの上昇圧力が、マイナスの実態・思惑がもたらす下落圧力を相殺する状態が続くと考えられます。

 WTI原油は1バレルあたり60ドルの節目を下回ると、すぐさま反発する動きを繰り返しています。一定程度の底堅さを伴っているのは、上昇・下落、両方の圧力のうち、上昇が勝っているためだと、考えられます。

 短期的な今後の原油相場の動向については、前回の暴落するんじゃなかったのか?石油株と原油相場はなぜ騰がっている!?で述べたとおり、WTI原油(期近)で、1バレルあたり70ドルを付ける可能性があると、筆者は考えています。

図:足元の原油相場の変動要因
 

出所:筆者作成

遠回り続出で海上運賃が上昇すれば海運株がさらに高騰する可能性も

 スエズ運河の場所を確認します。アラビア半島とアフリカ大陸の間に位置する紅海と地中海を結ぶ長さ200キロメートル弱の運河です。一定の規格を満たせば、大型タンカーでも航行できると言われています。

図:欧州とアジアを結ぶ航路 

※ 平均速度16.43ノットで航行した場合
出所:各種報道より筆者作成

 足元、コンテナが不足するほど海運に需要があると報じられていますが、この点をもとに考えれば、今回のスエズ運河の件は、航空便で代替できる貨物を除けば、同運河を通過するはずだった貨物の多くは南アフリカの“喜望峰”を迂回して運ばれる可能性があります。輸送需要が旺盛であるため、運ぶことを断念することは考えにくいでしょう。

 また、レポート執筆時点では、エジプトの大統領が、タグボートでの曳航を断念し、積荷を一時的に下ろす“軽量化作戦”に移行するよう指示したと報じられています。座礁した大型船から一時的に積み荷を降ろすためには、相応の時間とお金と労力がかかります。

 正常に航行できない期間が長期化する懸念が浮上しているわけですが、問題の長期化は、代替手段を用いる期間が長くなることを意味します。つまり、スエズ運河の航行不能状態が長期化すれば、代替手段で最も有望視される、“喜望峰ルート”での輸送が増加する可能性があります。

 海上輸送のコストは、要衝の通行料や保険料、その時の原油価格など、さまざまな要素で計算されていますが、“距離”がその額を左右する大きな要因と考えられます。距離が遠ければ、使用する燃料代が増えたり、日数がかさみ保険料が増えたりするためです。

 今回の代替手段のメインとみられる“喜望峰ルート”(欧州・アジア間)は、およそ2万5,000キロメートルと言われています。“スエズ運河ルート”は、およそ1万8,500キロメートルと言われているため、代替手段を用いることで本来の1.3倍強の距離を航行しなくてはならなくなります。日数の面では、およそ1週間余計にかかる(1.3倍)と言われています。

 スエズ運河の通行料も関わるため一概に言えませんが、それでも、距離と日数が1.3倍かかることを考えれば、代替手段を講じた場合のコストは、本来かかるコストよりも高くなる可能性があります。海運需要が旺盛であることを考えればなおさらです。

 このため、海運コストの総合的な指数である“バルチック海運指数”が今後、上昇する可能性があると筆者は考えています。同指数は海運業界がどの程度活発かと示す指標と考えられることがありますが、厳密には、ケープサイズ(喜望峰やホーン岬を経由する大型貨物船)40%、パナマックス(中米のパナマ運河を通過できる最大サイズの貨物船)30%、ハンディマックス(ばら積み船※のうち5万トン前後の貨物船)30%の比重(2018年3月時点)で計算された“運賃の指数”です。

※ばら積み船:穀物・鉱石などの梱包されていない荷物を輸送する貨物船。

 バルチック海運指数(運賃の指数)と、海運関連企業の株価は、この数カ月間、同じような動きをしています。海運需要が旺盛であること、(その他のコストが変わらなかった場合)運賃が上昇することで、これらの企業の収入が多くなる期待が増幅することなどが、要因に挙げられます。

図:国内外の海運株と海運指数 2020年11月2日を100として指数化
 

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 また、以下のとおり、上図に示した日本郵船(9101)、フロントライン(FRO)以外の、国内外の海運株も、座礁事故発生直後から、反発色を強めています。

図:国内外の海運株の騰落率

  銘柄名 2021年3月23日 2021年3月26日 騰落率
国内株 日本郵船(9101) 3900.00 3975.00 +1.9%
商船三井(9104) 4045.00 4080.00 +0.9%
川崎汽船(9107) 2548.00 2558.00 +0.4%
外国株 フロントライン(FRO) 7.27 8.09 +11.3%
ユーロナブ(EURN) 8.73 9.56 +9.5%
スター・バルク・キャリアーズ(SBLK) 13.88 15.125 +9.0%
ゴールデンオーシャングループ(GOGL) 6.875 7.165 +4.2%
スコーピオ・タンカーズ(STNG) 18.2 19.77 +8.6%
出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 運賃の上昇は、エネルギーや穀物、鉱石のコスト上昇にもつながるため、スエズ運河での座礁事故起因の運賃上昇が起こった場合、コモディティ(商品)価格の上昇というシナリオも、想定しなければならないかもしれません。しばらくは、同事故関連のニュースを注視する状況が続くと、考えらえます。

[参考]具体的な原油関連の投資商品

国内ETF/ETN

WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039

投資信託

UBS原油先物ファンド

外国株

エクソンモービルXOM
シェブロンCVX
トタルTOT
コノコフィリップスCOP
BPBP