金利と株式。悪いニュースは、ポジティブ材料

 金利と株式は、競争関係にあります。

 いま仮に銀行預金の利子が5%だとしましょう。すると銀行にお金を預けるだけで、ノー・リスクで5%のリターンが見込めるわけですから、株式が投資家の資金を獲得しようとすると、それよりずっと魅力的なリターンが見込めなくてはいけません。

 つまり、市中金利が高くなればなるほど、株式投資のハードルは高くなるのです。

 リーマン・ショックのような、経済を脅かす大事件が発生したら、中央銀行は速やかに利下げします。これは上の説明の流れからいくと、株式投資のハードルを下げることで、資産価格の防衛に乗り出すことを意味します。だから「利下げは株式にとってプラスなのだ」ということを理解してほしいのです。

 もちろん、政策金利の引き下げは、すぐに株式市場の上昇をもたらすとは限りません。普通、緩和措置が実体経済に効いてくるまでには、相当のタイムラグがあります。だから性急に出動し過ぎたら、やられる心配があるのです。

 この場合、利下げが発表されたにもかかわらず、経済のニュースは暗いものばかりが、これでもか、これでもかと続きます。具体的には企業倒産、失業率の上昇、自動車販売台数の落ち込み、住宅着工件数の低迷、鉱工業生産の低迷などです。株式市場の見通しに関しても悲観的な記事が多くなります。「利下げしたのに、なぜ経済は一向に好転しないのだろう?」……そういう焦りが出たとき、投資家は株式市場に見切りをつけます。

 しかし、ある時点から経済のニュースは依然として悪いのに、もう株価はそれに不感症になって、下がらなくなります。具体的には、それまでどんどん増えていた新安値銘柄数が、もうあまり増えなくなるのです。

 また、相場の大底では人々の関心は株式市場から離れてしまい、出来高は細る傾向にあります。投資家の気持ちが「もうそろそろ買い出動をかけて大丈夫だろうか?」というものから、「もう二度と株に手を染めたくない!」という辟易(へきえき)したムードに変わる……この時点で、第1回目の買い出動をかけてOKです。

 この局面の株価は、株式投資を始めて間もない投資家にとって、理解しにくい動きをします。不景気なニュースは、さらなる金融緩和を催促するものとして、株式市場参加者にポジティブに受け止められるのです。つまり「悪いニュースは、ポジティブ材料」というわけです。

 市場参加者は、金融緩和というものが累積的に、ジワジワ実体経済に効いてくるということを経験から知っています。株価には先見性があり、投資家は「いずれ緩和が実体経済に効いてくるのなら、先回りして株を仕込もうか?」という発想をするわけです。

 この段階ではいまだ景気は悪いわけですから、企業の業績もパッとしません。つまり投資家の期待を支えている唯一の支援材料は、金融緩和だけなのです。これが「金融相場」の初期の姿です。

 その場合、ニュースはどれも暗いものばかりで、金融緩和だけに一縷(いちる)の望みを託す……というと、いかにも危なっかしいように聞こえるのですが、実際にはこの段階での投資は比較的リスクが限定されています。なぜなら、中央銀行がクッションを提供しているからです。従って年季の入った投資家ほど、金融相場の初期段階では積極投資します。

 往々にして、そういう局面で人気化するのはバイオテクノロジー株やインターネット株のような普段から株価評価の高い銘柄である場合が多いです。これは低金利下ではPER(株価収益率)が拡張しやすいことを見越した投資戦略によります。

 金融相場初期段階でプロ投資家が果敢にリスクを取るのと対照的に、株式投資を始めて間もない投資家は暗いニュースに怖じ気(おじけ)づいて、なかなか投資に踏み切れません。