【4】投資結果の持つ「意味」が投資の邪魔をする

 投資にあった余計な「意味」で、最後に取り上げたいのは、投資の結果に対する「説明的な意味」を投資の途中にあって意識することだ。これが、なかなか厄介な場合がある。

 投資家は、しばしば投資の結果を知人などに対して自慢したいという心理を持っている。また、この気持ちと裏腹に、投資が失敗した場合には、恥ずかしくない言い訳をしたいと考える場合がある。

 例えば、投資した銘柄の業績が悪化し株価が下がって、倒産の可能性が視野に入ってきた場合にどう考えるか。

 冷静になると、既に株価の値下がりでその銘柄への投資金額は小さくなっているのだが、「倒産した会社の株を倒産するまで持っていた、というのでは格好が悪いな」という気持ちになって、「今のうちに売っておこう」と売却するとする。こうした場合に、その会社が倒産せずに持ちこたえて、1、2年後に、株価が大きく上昇している(特に率で見ると)といったことはよくある話だ。

 この場合、これ以上株価が下がる確率が大きいと思って売るのなら問題は無いのだが、「(他人に説明した場合に)格好が悪いから」という理由が影響するのは余計だ。

 事後的な説明が運用している最中の意思決定に影響するという意味では、実は、アマチュアよりもプロの投資家の方がより深刻な影響を受けているかも知れない。

 先の「倒産するかも知れない銘柄を慌てて売却する」といった投資行動は、プロに於いてより顕著である可能性が大いにある。

 例えば、先ほどから何度も例に出すが、仕事として、「年金運用は言い訳のアートである」と言って部分的には間違いでない。運用結果を定期的に顧客に直接説明する必要があるし、その巧拙がその後のビジネスに大いに影響する。運用スキルが同じなら、説明の上手いファンドマネージャーは、説明の下手なファンドマネージャーよりも、ビジネスパーソンとしての価値が遙かに高い。そして、将来あり得る言い訳を先読みできるファンドマネージャーは、あり得る言い訳の内容に現在の運用が影響を受ける場合がある。

 賢い投資家は、倒産しそうな会社、不祥事を起こした会社、ガバナンスの面で嫌われている会社、などに株価が必要以上に下落する投資のチャンスが起こりやすい背景に、言い訳を必要とするファンドマネージャーと彼の運用資金の動きがあることを頭に入れておこう。

 個人投資家にとって、この問題に対する対策は、自分の運用について他人に「自慢」も「言い訳」もしない、つまり一切説明しないことだろう。それでも、人間は、将来の自分自身に対する言い訳を考えたりすることがあるので、投資はつくづく難しい。

 しかし、難しいが故になかなか楽しい、と考えることにしたい。

投資から「意味」を分離しよう~「老後資金」「初心者向け」「ESG投資」は適切か?(上)を読む