原油:2021年の脱炭素は、原油の消費減少観測を強め、産油国の単価上昇策を誘発する

 2017年から2018年にかけて、OPECプラス※が減産を実施し、原油価格を上昇させると(させようとすると)、原油価格の上昇は、市民にとっては増税に等しく、企業にとっては原材料の調達コスト上昇の要因になるので受け入れがたい、などと、消費国の一部でOPECプラスの行動に対する反発の声が上がりました。OPECプラスとしても、自分が採掘した原油を買ってくれる消費国の意向を聞き入れる必要がありました。

※OPECプラス:サウジアラビア、イラクなどのOPEC加盟国13カ国と、ロシア、カザフスタンなどのOPECに加盟しない非OPEC諸国10カ国の合計23の産油国の集団。世界の原油供給の半分以上のシェアを占める。(2020年12月時点)

 “脱炭素”の議論が進み、消費国でガソリンや軽油などの自動車向け燃料の消費が減少する観測が浮上すれば、それらの原料である原油の消費量も減少する観測が浮上します。このような事態が発生した場合、これまでと同様、OPECプラスは消費国の意向を、聞き入れるでしょうか。

 例えば、原油を精製すると、さまざまな石油製品が獲得できます。LPガス、ガソリン、灯油、ジェット燃料、軽油、船の燃料、火力発電所の燃料、アスファルトなどの他、化学繊維や塗料、電子製品などのプラスチック部品の原料(ナフサ)も同時に獲得できます。原油からガソリンや軽油といった自動車の燃料だけを精製することはできません。

 化学繊維を用いた衣類や、現代人の必須アイテムである電子部品、市民の生活の場に規則を明示してくれる標識などに使われる塗料などは、今のところ、現代社会になくてはならない存在です。これらを、放棄することは、市民生活の根幹を自ら不安定化させることになりかねません。

 これらの点より、仮に“脱炭素”が浸透した社会においても、原油の消費量は、一定程度残ると、考えられます。つまり、自動車の燃料であるガソリンや軽油を一滴も使わなくなったとしても、人類が秩序ある豊かな生活や経済発展を望む限り、原油の消費はゼロにはならないと考えられます。

 OPECプラスは、人類(特に消費国)が秩序ある豊かな生活と経済成長を望む限り、原油の需要はゼロになることは考えにくいことを逆手にとり、販売量の減少を、単価である原油価格をつり上げて補う可能性が生じます。原油の消費が減少する観測が浮上すれば、原油価格がつり上がることで不平を述べる消費者は、消費が旺盛だったころに比べて、減るとみられるためです。

 流通規模の縮小は価格低迷を招くイメージが先行しがちですが、こと原油においては、人類が望む秩序ある豊かな生活と経済成長を支えてくれる“石油製品”を提供してくれることから、消費量はゼロになることは考えにくく、流通規模の縮小観測が浮上することをきっかけに、価格の決定権は生産者の手に渡り、原油価格は上振れする可能性があると、みられます。

 2021年では考えにくく、かつやや極端かもしれませんが、“脱炭素”によって、世界的に原油の消費が大きく減少(観測ではなく実際に減少)して原油がマイナーなコモディティ(商品)になったとします。この時、産油国が策を講じ、価格をつり上げれば、マイナーな銘柄特有の、一時的で極端な上昇が散見されるようになるかもしれません。

図:マイナーなコモディティ(商品)銘柄の値動きの例

出所:各種情報源より筆者作成

図:NY原油先物(期近 日足 終値) 単位:ドル/バレル

出所:ブルームバーグより筆者作成

※2021年の原油相場の見通しの詳細を「2021年原油相場の5大予測 “脱炭素”に過剰反応してはならない」 で述べています。

 今回は、“脱炭素”と金(ゴールド)、プラチナ、原油の関係について、書きました。“脱炭素”は、議論も施策も、まだ未成熟です。未成熟であるがゆえ、これから悪い分断が起きる可能性があったり(金)、目先の消費を増やす一因になったり(プラチナ)、消費が減少する懸念(実態ではない)を浮上させたり(原油)するわけです。

 “脱炭素”の、時間軸や議論の深度に留意しつつ、これらの銘柄との関係に、引き続き、注目していきたいと思います。

[参考]貴金属の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

[参考]具体的な原油関連の投資商品

国内ETF/ETN

WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039

投資信託

UBS原油先物ファンド

外国株

エクソンモービルXOM
シェブロンCVX
トタルTOT
コノコフィリップスCOP
BPBP