プラチナ:2021年の脱炭素は、車1台の排ガス浄化装置向け貴金属消費を増やす一因

 プラチナは主に、自動車の内燃機関(エンジン)と消音器(マフラー)の間に設置される排ガス浄化装置内の、排ガスが通る機構に用いられています。プラチナが持つ触媒作用(自分の性質を変えずに、化学反応によって相手の性質を変える作用)によって、機構を通る排ガス内の有害物質が、水や二酸化炭素に変換されます。

 以下のグラフは、欧州主要国で生産された自動車(自家用車、商用車、トラックなどを含む四輪車)の台数と、欧州主要国で自動車の排ガス浄化装置に使用された貴金属(プラチナ、パラジウム、ロジウム)の数量から推計した、欧州主要国における、自動車1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属消費量の推移です。

図:欧州主要国における、自動車1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属消費量(筆者推計) 単位:グラム

出所:OICA(国際自動車工業連合会)、トムソンロイターGFMSのデータをもとに筆者推計

 年々、増加していることがわかります。近年は、欧州主要国で生産される乗用車と商用車の割合は大きく変動していないことから、自動車1台あたりの貴金属消費量が増えた理由を、大型車が多く生産されたため、とすることはできません。

 増加の背景には、環境配慮のムードの中、今後も強化されることが想定される、世界屈指の厳しさと言われる、同地域の排ガス規制が挙げられると、筆者は考えています。

 年々厳しさを増す排ガス規制をクリアし続けるためには、燃焼効率が良い内燃機関や、大気中に排出される有害物質をできるだけ少なくする高性能の排ガス浄化装置が必要です。このような背景があり、排ガス浄化装置の性能を向上させるべく、自動車1台の排ガス浄化装置に使われる貴金属の量が増加していると、考えられます。

 “脱炭素”の本格的な議論が始まることも相成り、こうした厳しい環境規制を背景としたプラチナ需要の増加は、2021年も継続する可能性があると筆者は考えています。

 また、欧州では、“脱炭素”に寄与する考え方である、カーボンニュートラル(炭素中立)の議論が進行しています。これは、社会全体で二酸化炭素の排出量を評価する考え方です。

 例えば、これまで電気自動車(EV)は環境に配慮したクリーンな自動車だと言われてきましたが、その動力源となる電力は、まだ多くの国で、化石燃料を燃やし、二酸化炭素を排出しながら作られています。

 欧州委員会は、“社会全体”で二酸化炭素の排出量を低減するため、昨年(2020年)、水素社会を模索すると明言しました。このことをきっかけに、既存の自動車業界を中心に、水素と二酸化炭素を合成したeFuel(合成液体燃料)の研究が本格化しました。日本でも、トヨタやホンダなどが、研究に着手したと報じられています。

 カーボンニュートラルでは、二酸化炭素と水素から燃料を作ることで、二酸化炭素を吸収したとみなします。今のところeFuelは既存の化石燃料に配合することが想定されているため、配合後の燃料を使って走行した自動車が排出した二酸化炭素は、燃料を作る際に吸収した二酸化炭素によって、一部が相殺されたとみなします。

 eFuelはまだコストに見合わないとする報道もありますが、二酸化炭素を吸収すること以外にも、ガソリンスタンドなどの既存のインフラを使うことができる、内燃機関(エンジン)を製作・開発する上で培ったこれまでのノウハウを生かすことができる、など、メリットは複数あります。

 このため、欧州のカーボンニュートラル策の一環であるeFuelは、同地域の内燃機関を持つ自動車の存在を温存する役割があると、筆者は考えています。

 “脱炭素”を叫ぶ声が大きくなればなるほど、ガソリンや軽油、それらを燃料とする内燃機関を持つ自動車、そして、それらの自動車の排ガス浄化装置に用いられる貴金属の消費が減少するという連想が働きやすくなるかもしれませんが、実際のところは、黎明期でもあり、“脱炭素”がプラチナの消費を急減させることはないと筆者はみています。

 むしろ、“脱炭素”の流れもあり、環境規制がさらに厳しくなる見通しが示され、増加傾向にある欧州の自動車1台あたりの排ガス浄化装置向けのプラチナ消費がさらに増加する、さらにはeFuelの普及によって一定程度、内燃機関を持つ自動車の存在が温存される可能性があることなどから、2021年は、プラチナ相場に上昇圧力がかかりやすくなると、筆者は考えています。

図:NYプラチナ先物(期近 月足 終値) 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグより筆者作成

※2021年のプラチナ相場の見通しの詳細を「2021年のプラチナ6大予測:新しい上昇要因で1,300ドル程度まで上昇!?」 で述べています。