足元の2大不安、“カオスと化した米大統領選”、“爆発級の欧州のコロナ感染拡大”

 今、私たちは何に不安を感じているのでしょうか? これは、「私たちが今世の中で起きていることの何を“有事”と認識をしているのか?」という問いです。ここで言う不安とは、各々が抱えている個人的な不安ではなく、マーケット(市場)を動かす原動力となり得る大衆の心理における不安(大衆が感じる有事)という意味です。

 最近のニュースを見ていて目立つのは、やはり、

【1】カオスと化した米大統領選

【2】爆発級の欧州のコロナ感染拡大

です。これらは、足元の世界規模の2大不安と言っても過言ではありません。この2大不安は、株式や通貨、商品(コモディティ)、暗号資産など、さまざまな市場に影響を与えているとみられます。

 大衆の間で大規模な不安心理が高まった時に発生する“有事のムード”は、資金の逃避先需要を喚起し、金相場の上昇要因になることがあります(有事のムードおよびその他のテーマと金相場の関係についての詳細は後述します)。

【1】カオスと化した米大統領選
 カオス(chaos英語)の意味は、“混沌とした状態”です。11月3日(火)の米大統領選挙の投票日に向け、さまざまな選挙関連のイベントが行われていますが、10月13日(火)に行われた、共和党側の候補であるトランプ米大統領と民主党側の候補であるバイデン氏が舌戦を繰り広げた1回目のテレビ討論会について、あるメディアは“カオスだった”と酷評しました。

 強い言葉を相手の発言時にかぶせたり、目線を合わせなかったりした各候補の態度が、主な理由とみられます。ただ、カオスなのはこの討論会だけでなく、選挙戦そのものだと筆者は感じています。以下は、選挙戦のカオス度を高めているとみられる点です。

・トランプ大統領は新型コロナに感染した。また、それを機に、その後の関連イベントのスケジュールが変更された。

・郵送による投票について、一部の地域で投票用紙の誤配布が行われた。また、新型コロナの感染拡大の影響で、郵送による期日前投票が増え、開票が投票日の11月3日(火)中に完了しない可能性が高まった。

・バイデン氏の息子に関する複数の不正行為に関する報道が目立ち始めた。また、SNSを運営する会社が、不正行為を報じた大手メディアの記事を拡散させない措置を撤回した。

 投票日まで残り約2週間となる中、選挙戦のカオス度は増し、両候補者同士、相手に不利な情報を出し合う“泥仕合”の様相を呈しています。どちらが大統領選で勝利するのか? という疑問は、いつのどの種類の選挙戦においても、絶えず存在するわけですが、とりわけカオス化した今回の選挙戦は、この疑問に加え、いつ勝者が決まるのか? 勝利しても、それは本当の勝者なのか? などという疑問が浮上しているとみられます。

 また、米中問題や人種間の問題、新型コロナ対策、経済対策など、山積する課題を解決してくれることを、史上まれに見るカオスと化した選挙戦で生まれた大統領に、期待を寄せてよいものか? という疑問も浮上していると、筆者は感じます。

 今も、もちろん不安ではあるものの、次の4年も不安が続く可能性がある。このように、今回の米大統領選挙は、足元のみならず、未来に爪痕を残す可能性がある、強い“有事のムード”を醸す要因になっていると考えられます。

【2】爆発級の欧州のコロナ感染拡大
 この数カ月間の、欧州の新型コロナの感染状況は非常に深刻です。以下のグラフのとおり、患者数が勢いを増して、増加しています。第1波と呼ばれた今年3月と比較にならない規模です。スペインを筆頭に、フランス、英国、イタリア、ドイツの主要5カ国で、8月以降、患者数の増加が目立っています。

 爆発的な感染拡大の意味で使われる“感染爆発”という言葉がありますが、今の欧州の状況は、“爆発級の感染拡大”と言えると思います。以下のグラフは、上記の主要5カ国における、人口10万人あたりの患者数です。

図:欧州の主要国における人口10万人あたりの新型コロナの患者数 単位:人

※患者数は、感染者―回復者―死亡者で計算

出所:ブルームバーグより筆者作成

 主要5カ国の人口10万人あたりの患者数の平均は、10月16日時点で715.1人でした。これは、第1波のピークである4月28日の148.8人の5倍弱です。現在その最中にある第2波の山の大きさに比べれば、第1波は小さな丘にすら見えます。違反者に罰金が科されている夜間の外出禁止令が敷かれたフランス、そして英国での増加が目立ち、さらにスペインでは、米国を上回る状況となっています。

 患者数の増加は、医療ひっ迫の直接的な原因になり得ます。今は秋ですが、これから冬に入り、インフルエンザや風邪など、他の感染症の感染拡大が目立てば、医療がひっ迫する可能性は今よりも高くなることが予想されます。

 冬に入った時、医療ひっ迫の可能性が高まるのは、欧州だけではありません。北半球のとくに中緯度以北の国、いずれにもその可能性があります。世界規模で感染拡大がとまらず、さらにここから懸念が強まる可能性があるわけです。

 また、この数週間で、いくつかの新型コロナのワクチン開発において不安を強める動きが出ています。安全性の問題から治験(臨床試験)が中断されたり、WHO(世界保健機関)に効果がないとみなされたり、ワクチンを接種したものの抗体ができずに感染した例が報告されています。一部では、新型コロナウイルスは変異型であるため、特定の型のウイルスに準拠したワクチンの効果は限定的である、という報道もあります。

 これらのワクチンをめぐる動きは、コロナ後の世界と言われる“アフターコロナ”が到来する日が遠のく失望を招き、ワクチンに期待を寄せる多くの人々の期待を失望に変えかねない、大きな懸念と言えます。ましてや、世界全体の患者数の増加が止まる気配がなく、北半球が冬を迎えようとしている今であれば、なおのこと、ワクチン開発におけるさまざまな動きは、不安を強める大きな懸念と言えるでしょう。

 欧州の爆発級の感染拡大、そしてワクチン開発をめぐるさまざまな動きは、米国の大統領選挙と同様、強い“有事のムード”を醸し、そしてそのムードが長期的に市場に影響を与え続ける可能性があると言えるでしょう。次より、有事のムードおよびその他のテーマと金相場の関係について述べます。