3.家庭用ゲームビジネスにとってクラウドは将来脅威になるだろうが、共存も出来るだろう

 ただし、今すぐではないにせよ、将来的に(今後2~5年のうちに)クラウドゲームはゲーム市場の一角を占めることになると思われます。ソニーや任天堂にとっては、ハードウェアを選ばないクラウドゲームは、レスポンスが大きく改善すれば、競争相手になる可能性があります。

 一方で、ゲームプレイヤーにとっては、様々なゲームを安くプレイすることが出来ます。ゲームソフト専業にとっては長期的に収益源が増えることになります。グーグルやアマゾンにとっては、ゲームが新たな収益源になる可能性があります。

 家庭用ゲーム会社、ソニー、任天堂、マイクロソフトにとっては、クラウドゲームは一見すると脅威です。クラウドゲームをプレイするのに、高いゲーム専用機は必要ないからです。ただし、全てのゲーム会社がゲーム専用機一辺倒のビジネスを将来も展開しようとしているわけではありません。ソニー、マイクロソフトは、クラウドゲームに進出しています。ソニーは、一部のゲームですが、ソニー製ゲームをパソコンにも移植しています(「Detroit」にPS4版だけでなくPC版がある)。まだお試しの段階と思われますが、将来はマルチプラットフォーム化(ソニー製ゲームの一部がパソコンやクラウドゲームに移植される?)する可能性もあるでしょう。

 また、超高精細CGを使ったアクションゲーム(映画のようなゲーム)はPS5のような高性能ゲーム機でプレイし、普通のカジュアルゲームはクラウドゲームで、という棲み分けも考えられます。

 ここでポイントになるのは、家庭用ゲーム機のビジネスには大きな欠点があるということです。今回の巣ごもり消費は極端な例かもしれませんが、我々の世界が大感染症時代ともいうべき時代を迎えているとすれば、新型コロナのような世界的な感染症が今後も発生する可能性があります。また、ゲームに限らずエンタテインメントの世界には突発的な大ブームが起こることがあります。

 家庭用ゲーム機は、ソニーや任天堂のようなプラットフォームホルダーが独占的に生産します。彼らが今回の新型コロナや過去に何度も起こったブームを事前に予想できるわけではありません。そのため、ブームが起きると家庭用ゲーム機は必ずと言ってよいほど品不足になります。要するに、今の家庭用ゲームビジネスでは、大きなビジネスチャンスが到来するほど不可避的に大きな機会損失が発生するのです。この機会損失を防ぐには、例えば一部の人気ソフトをパソコン向けに移植したり、クラウドゲームで配信すると効果的と思われます。全くの私見ですが、ソニーとマイクロソフトは、将来ある程度までビジネスモデルの変更を考えていると思われます。

 ただし、任天堂は今の事業がうまく行かなくなるまで、あるいは次世代ハードの投入時期(4~6年後?)に事業環境が激変しない限り、今のゲーム専用機ビジネスを修正することはないと思われます。

 今後のゲーム市場を考えると、より重要になるのは、ゲームソフトとゲームソフトを作るゲームソフト会社です。任天堂やソニーも優良ゲームシリーズを持っているため重要ですが、日本企業としては、優良ゲームソフトシリーズを持つ、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングス、バンダイナムコホールディングス、コーエーテクモホールディングスの4社が重要になると思われます。

4.注目銘柄

バンダイナムコホールディングス

1)家庭用ゲームに巣ごもり需要の恩恵

 バンダイナムコホールディングスの2021年3月期1Q(2020年4-6月期)は、売上高1,450億3,500万円(前年比8.9%減)、営業利益199億1,500万円(同12.8%減)となりました。

 セグメント別に見ていくと、今1Qのトイホビーは、新型コロナの悪影響はあったものの、売上高544億2100万円(同4.3%減)、営業利益63億3800万円(同6.9%減)と悪影響は軽微でした。ガンプラが堅調で業績を底支えしました。

 ネットワークエンターテインメントは、スマホゲームを中心とするネットワークコンテンツが売上高495億円(前年比4.0%増)と堅調だったことに加え、家庭用ゲームが売上高250億円(同40.0%増)と好調でした。家庭用ゲームでは、特にリピート販売が巣ごもり消費の寄与で好調でした(リピート販売の販売本数は前年比2.3倍)。

 一方で、リアルエンターテインメントはアミューズメント施設の休業の影響で赤字転落、映像音楽プロデュースは、音楽ライブ等のイベントの中止、複数のパッケージ商品の発売延期などが響き大幅減益となりました。

 IPクリエイションは、今年3月に連結子会社の創通を100%子会社としたため、大幅増収となりましたが、「機動戦士ガンダム」の新作アニメの劇場公開延期により減益となりました。

 トイホビーの減益幅が小幅に止まり、ネットワークエンターテインメントが巣ごもり需要の恩恵を受けたため、今1Qの全社の減益幅は小幅に止まりました。

表1 バンダイナムコホールディングスの業績

株価 7,689円(2020/9/30)
発行済み株数 219,629千株
時価総額 1,688,727百万円(2020/9/30)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表2 バンダイナムコホールディングスのセグメント別業績(四半期ベース)

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:2018年3月期からセグメント分けが変更されたため、2017年3月期以前のセグメントとは接続しない。

表3 バンダイナムコホールディングスのセグメント別業績(通期ベース)

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:2018年3月期からセグメント分けが変更されたため、2017年3月期以前のセグメントとは接続しない。