為替DI:「円高」予想の個人投資家、なぜ今増えているのか?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

「10月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 9月末に楽天証券が実施した相場アンケート結果によると、回答を頂いた個人投資家5,289人のうち、約44%(2,311人)が、10月のドル/円は「ドル安/円高に動く」と予想しています。

一方で「円安に動く」は最も少ない約21%(1,129人)。「動かない(分からない)」は約35%(1,849人)でした。

 米国では大統領選挙の熱戦が繰り広げられるなかで、トランプ大統領がコロナウイルスに感染、一時入院するという波乱が起きました。大統領レースがいっそう混迷するのか、それとも逆に結果がはっきり決まってしまったのか。個人投資家の方々がこの騒ぎをどう受けて止めているのか興味があるところですが、今回のアンケートには残念ながら「トランプ氏入院」は含まれていません。

「われわれは重要な(金融政策の)変更を行った。」パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、9月のFOMC(連邦公開市場委員会)会合後に、このように宣言しました。FRBはインフレ率が2%に上昇し、さらにしばらくの間2%を緩やかに超える軌道に乗るまで「ゼロ金利」を維持することを決定、「平均物価目標」という政策概念を導入することで、インフレを「抑える」から「育てる」へ方針転換したのです。FOMCメンバーによる金利見通しは、少なくとも2024年前半まで金融政策の変更(利上げ)はないことを示しています。

 物価が(一時的に)2%を超えても黙認することは、分かりました。でもFRBが物価2%と失業率4.1%を同時に達成できたのは、過去60年間でたった2回の実績しかありません(現在失業率は7.9%)。

 もし反対に物価がさらに下落する場合はどうなるのか? ゼロ金利の次は「マイナス金利」がやってくるのか? しかし、FRBは否定的な見解を示しています。

 マイナス金利を実施している日本と欧州の銀行のデータを分析した結果、マイナス金利が長く続くほど、銀行の収益性と貸出活動の両方が「低下する」ことが判明しています。

 マイナス金利で銀行の貸出が増えると言われます。しかし、マイナス金利下では最初の1年間のみ増加するが、その後2年間は貸出が減少し、当初の増加分を取り返す以上に減少するという結果が出ています。

 とはいえ、米国のインフレが底辺に張り付いたまま改善しなければ、いずれかの時点でマイナス金利は議題に上ってくるでしょう。日銀にはこれ以上金利を下げる余裕はないと見られています。日米金利差からドル/円は円高に向かうという考えが増えているのです。

 もっとも、インフレ見通しも一様ではありません。コロナの影響によって食料品価格が上昇してインフレが急騰するという意見もあります。

 しょせん、経済に今何が起きているのか分からないのに、将来を正確に予想できるわけがないのです。全ての経済予想が間違っていたのだから、新しい経済予想も間違っているだろうと考えるべきです。確実なことがあるとすれば、将来に対する不透明感が広がっているということでしょうか。不透明感は「安全資産」としての円の価値を高め、円高につながります。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 9月のユーロ/円の終値は123.59円。8月終値に比べて約2.80円のユーロ安/円高でした。

 楽天証券が実施した相場アンケート調査の結果によると、個人投資家5,289人のうち約37%(1,962人)が、10月のユーロ/円は「ユーロ安/円高に動く」と予想しています。

 一方で「ユーロ高/円安に動く」は、最も少ない約16%(854人)。「動かない(分からない)」は、約47%(2,473人)でした。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

  9月の豪ドル/円の終値は78.13円。8月の終値に比べて約2.30円の豪ドル安/円高でした。楽天証券が実施した相場アンケート調査の結果によると、個人投資家5,289人のうち約31%(1,612人)が、10月の豪ドル/円は「豪ドル安/円高に動く」と予想しています。

「豪ドル高/円安に動く」は約16%(854人)で最も少なく、「動かない(分からない)」は約53%(2,823人)で半数を超えています。