6.米中摩擦。SMICがもしエンティティ・リストに載ったら。
このテーマの詳細は、楽天証券投資WEEKLY2020年9月11日号特集2を参照してください。
報道によれば、中国のロジックファウンドリ(半導体受託生産業者)、SMICを、アメリカ政府がエンティティ・リストに掲載することを検討中ということです。SMICはロジックファウンドリとしては、中国最大手、世界では5位の会社です。
この規制が実現すると、2018年10月のJHICC(DRAMメーカー)、2020年9月のファーウェイに次いで、SMICは西側から半導体、半導体製造装置などを購入することができなくなります。
SMICは日米の半導体製造装置メーカーから最先端の半導体製造装置を購入しており(ただし、ASMLのEUV露光装置は中国には輸出されていない)、短期的には東京エレクトロン、アドバンテストなどの日本の半導体製造装置メーカーにとってマイナス要因になると思われます。日系半導体製造装置メーカーの中国向け売上比率はおおむね20~30%で、SMICの売上比率は10%以下と推定されます。レーザーテックを除いて日本の大手半導体製造装置メーカーは、SMICなどの中国民族系半導体メーカーと、サムスン、インテルなど外資系半導体メーカーの中国工場を大口顧客としています。
SMICの技術レベルは14ナノまでです。西側から最先端の半導体製造装置を購入できなくなると、同社にとって最先端の14ナノラインが維持できなくなる可能性があります。40ナノは中古の半導体製造装置といわゆる山賊メーカー(特許切れの技術を使って旧式の半導体製造装置を製造販売しているメーカー)の製造装置で維持できると思われますが、20ナノ台は維持できるか不透明です。
製造ラインがいつ止まるかわからない半導体メーカーに発注する企業は少ないと思われるため、もしアメリカがSMICをエンティティ・リストに掲載すれば、SMICから顧客離れが起こる可能性があります。そしてSMICの顧客が新たに発注する先は、TSMC、サムスン、グローバルファウンドリ、UMCなどの西側のファウンドリであろうと思われます。TSMC、サムスンは、日本の半導体製造装置メーカーにとって最重要顧客です。
新規顧客が増えれば西側のファウンドリは設備投資を増やすと思われます。要するに、SMICへの規制が実現すれば、短期的には日米の半導体製造装置メーカーにとってはマイナスになると思われますが、いずれは今の大手顧客の設備投資増加によって失ったものを取り返せると思われるのです。
なお、9月15日から西側からファーウェイ向けには半導体が一部を除いて出荷できなくなっていますが、後述の新型ゲーム機、パソコン用CPU、サーバー用CPUの増産などによって、短期間で取り返すことが出来ると思われます。
7.PS5。映像、ホームエレクトロニクス、コンピューティングの革命が始まる。
このテーマの詳細は、楽天証券投資WEEKLY2020年9月18日号を参照してください。
表6は、私が試算した家庭用ゲーム機の巣ごもり特需の規模です(楽天証券投資WEEKLY2020年8月28日号より再掲)。今年2~3月から世界的に映画館、劇場、音楽ライブなどのリアルエンタテインメントが停止したため、その需要の一部が家庭用ゲーム市場に流入しようとしていると考えられます。そのため家庭用ゲーム機に対して、最低で約8,000万台、最大2.5億台の巣ごもり特需が発生していると試算されます。これがニンテンドースイッチの品不足の要因であり、PS5と新型Xboxに注文が殺到している大きな要因と考えられます。
表6 家庭用ゲーム機:巣ごもり需要の推定
2020年11月12日、日米欧その他の国々でPS5が発売されます。CPUは「x86-64-AMD Ryzen“Zen 2”」(AMDの⾼速CPU「Ryzen」のカスタマイズ)、GPUは「AMD Radeon RDNA 2-based graphics engine」(AMDの⾼性能GPUのカスタマイズ)で、いずれもTSMCの7ナノラインで⽣産されます。CPUの性能の⾼さと並んでGPUの性能の⾼さが特徴で、⾼精細動画の⾮常に滑らかな⾼速処理が出来ます(「レイトレーシング」)。
また、825GBの⾼速SSDを搭載します。
新型Xbox(Xbox series X、S)もほぼ同じ性能のCPU、GPU(AMDのカスタマイズ)を使い、TSMCの7ナノラインで生産します。
当面の問題は、ソニーが今期どの程度PS5を売る計画なのか(2021年3月期2Q(2020年7-9月期)決算で明らかになると思われます)、TSMCの7ナノラインの生産能力、PS5ハードの採算です。
PS5は、家庭用ゲーム機としてはコストパフォーマンスが極めて高いこと、PS4ユーザー約1億人、eSportsの競技人口1億人以上、視聴者4億人以上、パソコンゲームの愛好家、巣ごもり特需と、かなり多い購入候補者が控えていることを考えると、当面は作れば売れる状態であろうと思われます。楽天証券では、今期のPS5販売台数を1,200万台(1,000~1,500万台)、来期は最低で2,000万台と予想していますが、特に来期は仮に3,000~4,000万台と家庭用ゲーム機としては前例がない数量を作ったとしても売り切れると思われます。
仮に、PS5ハードが過去に前例がないほど売れるとすれば、様々な分野にインパクトを与えると思われます。まず、生産ラインが7ナノの先端ラインなので、TSMCの設備投資増加と7ナノの競争力強化に結び付くと思われます。
PS5は、約5万円で20万円前後かそれ以上の価格のゲーミングPCと同等の性能を持つため、ゲーミングPCの需要を圧迫する可能性があります。ゲーミングPCはグレードアップが必要になると思われますが、そのため、2021年か2022年にパソコン用CPUの5ナノ化が行われる可能性があります(AMDは2022年までに5ナノCPUを始めるとしています)。
これまでは、パソコン用CPUではインテル、GPUではエヌビディアが主流でしたが、PS5の評判が良好なら、AMDのパソコン市場における評価が上昇する可能性もあります。
また、PS5によって高度なグラフィックスがこれまで以上にゲームの世界と家庭に入り込むことになります。画像処理用パソコンの販売増加につながる可能性もあります。
このように、PS5は、ゲームの世界のみならず、映像、ホームエレクトロニクス、コンピューティングなど様々な世界にインパクトを与え、それが先端半導体の需要に刺激を与える可能性があります。生産、販売動向を注視したいと思います。
グラフ11 ソニーのゲームサイクル:プレイステーションの販売台数
8.半導体製造装置メーカー5社の業績予想と目標株価は変更しない
楽天証券でカバーしている半導体製造装置メーカー5社(東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、ディスコ、SCREENホールディングス)の業績予想と、今後6~12カ月間の目標株価は変更しません。5社とも引き続き投資妙味を感じます。
今後6~12カ月間の目標株価
東京エレクトロン 3万7,000円
アドバンテスト 8,000円
レーザーテック 1万3,000円
ディスコ 3万5,000円
SCREENホールディングス 6,500円
日本の半導体製造装置メーカー5社の業績表
表7 東京エレクトロンの業績
表8 アドバンテストの業績
表9 レーザーテックの業績
表10 ディスコの業績
表11 SCREENホールディングスの業績
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)、アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)