毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)、アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)
1.2020年7月の世界半導体出荷金額は前年比4.4%増
今回の特集は、半導体製造装置です。半導体、半導体製造装置関連のデータをチェックします。また、半導体設備投資にとっての重大テーマ、新型コロナ感染症の動向、米中摩擦、そしてプレイステーション5(PS5)の3つの論点から、今年度(2021年3月期)下期の半導体製造装置株を展望したいと思います。
まず、世界半導体出荷金額の動きから。2020年7月の世界半導体出荷金額(単月)は、342億3,800万ドル(前年比4.4%増、前月比8.1%減)となりました。前年比では一ケタながら回復が続いています(表1)。
向け先地域別に見ると、南北アメリカ向けが前年比20.0%増と伸び率は鈍化していますが、高い伸びが続いています。欧州向けは他地域に比べ不振で同12.8%減となりました。最大消費地であるアジア・太平洋向けは同3.0%増と緩やかな伸びが続いています。
世界半導体出荷金額の3カ月移動平均の長期トレンドを見ると(グラフ1)、新型コロナの不況下で横ばいの動きです。ただし、後述する先端半導体の分野は順調な成長が続いているため、全体では再び上昇に転じるタイミングを待つ状況と言えそうです。
表1 世界半導体出荷金額(単月)
グラフ1 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)
2.TSMCの2020年8月売上高は前年比15.8%増
汎用半導体から先端半導体までの半導体市場全体を見ると、横ばいが続いていますが、先端半導体市場を見ると、順調な伸びが続いています。世界最大の半導体受託生産業者、TSMCの8月売上高は前年比15.8%増となりました。6月の同40.8%増、7月の同25.0%増に比べ伸び率は鈍化していますが、8月売上高は過去最高でした。
TSMCの順調な売上高には、まず、新型iPhone向けの5ナノラインの稼働開始が寄与していると思われます。新型iPhoneの発売日はまだ不明ですが、2017年11月発売の「iPhoneX」から上位機種の端末価格が10万円以上に上昇したため、買い替えずに旧機種を使い続けているiPhoneユーザーが多いと言われております。そのため、「X」以降のiPhone上位機種は売れ行きが悪くなりました。一方で、今秋発売予定の新型iPhoneは、比較的安い価格設定で5G対応になっていると言われており、多くのiPhoneユーザーが買い替える可能性があります。
また、新型iPhone以外の5Gスマホ向け、サーバー向け(データセンター向け)の伸びが続いていると思われることも、TSMCにとって重要です。
今後はこれらにPS5と新型Xbox向けCPU、GPUの生産が加わります(後述)。PS5、新型Xboxともに、CPU、GPUはTSMCの7ナノラインで生産されます。
家庭用ゲーム機に対する巣ごもり特需の規模が大きいと思われること(後述)、PS5、新型Xboxともに価格・性能比が極めて優れていること、PS5では発売日から「スパイダーマン」をはじめとする力を入れたソフトが投入されることなどから、特にPS5は家庭用ゲーム機としては過去最大のヒットになる可能性があります。そのため、TSMCの業績に対するインパクトも少なからずあると予想されます。
9月15日以降、西側半導体メーカーからファーウェイ向けの半導体は、一部の例外を除いて出荷できなくなっていますが(インテル、AMDのパソコン用CPUはアメリカ政府の許可を受けて出荷されたもよう)、ファーウェイが欠けた穴は時間をおかずに他の顧客向けで埋め合わされると思われます。
このあたりの状況が判明するのは、10月15日に予定されているTSMCの2020年12月期3Q(2020年7-9月期)決算発表においてです。TSMCの3Q決算を注視したいと思います。
グラフ2 TSMCの月次売上高:前年比
グラフ3 TSMCの月次売上高
グラフ4 TSMCのテクノロジー別売上高
表2 TSMCの用途別売上高
3.メモリ市況-大口価格は軟化しているが、DRAMスポット価格は底打ちの兆しがある-
DRAM、NAND型フラッシュメモリの市況を見ると、大口価格はいずれも9月に入ってやや下落しました。新型iPhone、新型ゲーム機、データセンター向けの好調などはありますが、NANDは設備投資が増加しており、これが価格下落の要因になっていると思われます。また、DRAMは今春にデータセンター向けの大口需要家の購入があった反動があります。
メモリ価格の下落は通常は半導体製造装置株の弱気要因ですが、足元の状況を見るとそうとも言えません。PS5も新型Xboxも販売価格から見ると、ハードだけでは赤字になると思われますが、DRAM、NANDの価格低下は採算改善要因なので、ゲーム機を増産するにあたって悪いことではありません。
また、DRAMスポット価格は8月中旬から9月にかけて底打ちしつつあるように見えます。ファーウェイの調達が増えたためと言われており、仮にこのままDRAMスポット価格が上昇に転じれば、DRAM大口価格の底支え要因になると思われます。
グラフ5 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)
グラフ6 DRAMの市況
グラフ7 DRAMのスポット市況
4.日本製、北米製半導体製造装置販売高は順調
半導体設備投資は順調に伸びていると思われます。日本製、北米製とも半導体製造装置販売高は、前年比、前月比ともに、順調です。2020年8月の日本製半導体製造装置販売高は、1,884億700万円(前年比17.3%増、前月比0.2%増)、北米製は26億5,330万ドル(前年比32.5%増、前月比3.0%増)となりました。
特に前工程(ウェハプロセス)が順調に伸びていると思われます。2019年の7ナノ増強と5ナノ新設、2019年年末のNAND投資再開に続き、2020年は7ナノ、5ナノ増強と後半にDRAM投資再開の可能性もあります。また2021年は5ナノ増強と3ナノ新設が予定されているもようですが、新型ゲーム機向け、パソコン、サーバー向けの7ナノ半導体の需要が大きくなる可能性があり、7ナノラインが再度増強される可能性もあります。CPU、GPUの需要と生産が増えれば、それに対応してDRAM、NANDの需要も増えるため、CPU、GPUの動きはメモリ生産と設備投資にとっても重要になります。
当面の注目点は、10月に発表される2020年7-9月期決算において、TSMC、サムスン、インテルの3社が2020年12月期の設備投資計画を維持するのか上方修正するのかです。特に、TSMCが新型iPhoneと新型ゲーム機に対応して設備投資を上方修正するのかどうかが注目されます。
なお、9月16日に開催されたディスコのミッド・クオーターアップデートによれば、これまで新規の引き合いが鈍かった中国、台湾のOSAT(後工程専門業者)から、背景は不明ながら、新規の引き合いが出始めたようです。ディスコは一部の動きとして慎重な見方を変えていませんが、後工程に何らかの前向きな変化が出てきた可能性があります。
表3 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)
表4 大手半導体メーカーの設備投資
5.3つの論点から今年度下期の半導体製造装置株を考える。新型コロナウイルス感染症の終息は最短で2021年後半か。
ここからは、今後の半導体製造装置株を考えるときに重要な3つの論点、新型コロナウイルス感染症、米中摩擦、新型ゲーム機(特にPS5)について、半導体、半導体製造装置市場との関連を考えます。まず、新型コロナウイルス感染症から。
グラフ8~10は、日本、アメリカ、イギリスの新型コロナウイルス感染症の新規感染者数、新規死亡者数を日次で見たものです(報告ベース)。
日本は、第2波は終息しつつあるところです。ただし、これからインフルエンザの季節に入ります。新型コロナとインフルエンザの流行が重なったときに、どのような状態になるのか不透明です。引き続き油断できない状況です。
また日本では、新型コロナ禍をワクチン(安全なワクチンがいつ頃出来るのか不透明ですが)なしで克服することは難しいと思われます。企業の中に一定の割合で対策を十分取ろうとしない企業があります。一部の学校も、集団活動、集団生活を続けた結果、集団感染を引き起こしています。日本政府の政策も、はっきりしません。GO TOキャンペーンのように新型コロナウイルス感染症を防ぐ目的とは逆方向の政策を採用することがあります。
アメリカの場合は、第2波のピークは過ぎたと思われますが、新規感染者数は依然として高水準です。イギリスでは第2波が始まっており、すでに第1波のピークに匹敵する新規感染者数が記録されています。第2波はヨーロッパ全体で拡大しており、移動制限等の規制を再発動する動きが出ています。
日本、アメリカ、イギリス(欧州)ともに、新規死亡者が少なくなっていることは不幸中の幸いですが、楽観できる状況ではありません。
新型コロナウイルス感染症の治療薬は、各国で臨床試験が進められており、承認されるケースもでています。ワクチンは、アメリカで4つのワクチンが第3相の大規模臨床試験に入っています。アメリカのCDC(疾病予防管理センター)によれば、新型コロナウイルス用のワクチンが普及し始めるのが2021年春~夏です。ワクチンは投与人数が他の新薬に比べて格段に多いため、副作用が起きた場合に医療機関への負担が重くなります。従って、普及にはある程度の時間がかかると思われます。今第3相の治験を行っている4つのワクチンの中で承認されるものが出て、実際に副作用が少なく、よく効いたとしても、新型コロナウイルス感染症が終息に向かうのは2021年後半から2022年に入ってからと予想されます。
この考え方が正しいとすると、2021年いっぱいはテレワーク等の巣ごもり型の労働が一般的になると思われます。企業によってはテレワークを恒久化する動きもあります。当面は、テレワーク用の高性能パソコン、データセンター用サーバー、テレワークシステムに使う各種ソフトウェア、ネットワーク機器の需要が期待できると思われます。
新型コロナウイルス禍による不況自体は半導体需要にはマイナスですが、テレワークは先端半導体需要にとってはプラスです。
グラフ8 新型コロナウイルス感染症の感染者数と死亡者数(日本)
グラフ9 新型コロナウイルス感染症の感染者数と死亡者数(アメリカ)
グラフ10 新型コロナウイルス感染症の感染者数と死亡者数(イギリス)
表5 新型コロナウイルス感染症用ワクチンの開発計画(主なもののみ)
6.米中摩擦。SMICがもしエンティティ・リストに載ったら。
このテーマの詳細は、楽天証券投資WEEKLY2020年9月11日号特集2を参照してください。
報道によれば、中国のロジックファウンドリ(半導体受託生産業者)、SMICを、アメリカ政府がエンティティ・リストに掲載することを検討中ということです。SMICはロジックファウンドリとしては、中国最大手、世界では5位の会社です。
この規制が実現すると、2018年10月のJHICC(DRAMメーカー)、2020年9月のファーウェイに次いで、SMICは西側から半導体、半導体製造装置などを購入することができなくなります。
SMICは日米の半導体製造装置メーカーから最先端の半導体製造装置を購入しており(ただし、ASMLのEUV露光装置は中国には輸出されていない)、短期的には東京エレクトロン、アドバンテストなどの日本の半導体製造装置メーカーにとってマイナス要因になると思われます。日系半導体製造装置メーカーの中国向け売上比率はおおむね20~30%で、SMICの売上比率は10%以下と推定されます。レーザーテックを除いて日本の大手半導体製造装置メーカーは、SMICなどの中国民族系半導体メーカーと、サムスン、インテルなど外資系半導体メーカーの中国工場を大口顧客としています。
SMICの技術レベルは14ナノまでです。西側から最先端の半導体製造装置を購入できなくなると、同社にとって最先端の14ナノラインが維持できなくなる可能性があります。40ナノは中古の半導体製造装置といわゆる山賊メーカー(特許切れの技術を使って旧式の半導体製造装置を製造販売しているメーカー)の製造装置で維持できると思われますが、20ナノ台は維持できるか不透明です。
製造ラインがいつ止まるかわからない半導体メーカーに発注する企業は少ないと思われるため、もしアメリカがSMICをエンティティ・リストに掲載すれば、SMICから顧客離れが起こる可能性があります。そしてSMICの顧客が新たに発注する先は、TSMC、サムスン、グローバルファウンドリ、UMCなどの西側のファウンドリであろうと思われます。TSMC、サムスンは、日本の半導体製造装置メーカーにとって最重要顧客です。
新規顧客が増えれば西側のファウンドリは設備投資を増やすと思われます。要するに、SMICへの規制が実現すれば、短期的には日米の半導体製造装置メーカーにとってはマイナスになると思われますが、いずれは今の大手顧客の設備投資増加によって失ったものを取り返せると思われるのです。
なお、9月15日から西側からファーウェイ向けには半導体が一部を除いて出荷できなくなっていますが、後述の新型ゲーム機、パソコン用CPU、サーバー用CPUの増産などによって、短期間で取り返すことが出来ると思われます。
7.PS5。映像、ホームエレクトロニクス、コンピューティングの革命が始まる。
このテーマの詳細は、楽天証券投資WEEKLY2020年9月18日号を参照してください。
表6は、私が試算した家庭用ゲーム機の巣ごもり特需の規模です(楽天証券投資WEEKLY2020年8月28日号より再掲)。今年2~3月から世界的に映画館、劇場、音楽ライブなどのリアルエンタテインメントが停止したため、その需要の一部が家庭用ゲーム市場に流入しようとしていると考えられます。そのため家庭用ゲーム機に対して、最低で約8,000万台、最大2.5億台の巣ごもり特需が発生していると試算されます。これがニンテンドースイッチの品不足の要因であり、PS5と新型Xboxに注文が殺到している大きな要因と考えられます。
表6 家庭用ゲーム機:巣ごもり需要の推定
2020年11月12日、日米欧その他の国々でPS5が発売されます。CPUは「x86-64-AMD Ryzen“Zen 2”」(AMDの⾼速CPU「Ryzen」のカスタマイズ)、GPUは「AMD Radeon RDNA 2-based graphics engine」(AMDの⾼性能GPUのカスタマイズ)で、いずれもTSMCの7ナノラインで⽣産されます。CPUの性能の⾼さと並んでGPUの性能の⾼さが特徴で、⾼精細動画の⾮常に滑らかな⾼速処理が出来ます(「レイトレーシング」)。
また、825GBの⾼速SSDを搭載します。
新型Xbox(Xbox series X、S)もほぼ同じ性能のCPU、GPU(AMDのカスタマイズ)を使い、TSMCの7ナノラインで生産します。
当面の問題は、ソニーが今期どの程度PS5を売る計画なのか(2021年3月期2Q(2020年7-9月期)決算で明らかになると思われます)、TSMCの7ナノラインの生産能力、PS5ハードの採算です。
PS5は、家庭用ゲーム機としてはコストパフォーマンスが極めて高いこと、PS4ユーザー約1億人、eSportsの競技人口1億人以上、視聴者4億人以上、パソコンゲームの愛好家、巣ごもり特需と、かなり多い購入候補者が控えていることを考えると、当面は作れば売れる状態であろうと思われます。楽天証券では、今期のPS5販売台数を1,200万台(1,000~1,500万台)、来期は最低で2,000万台と予想していますが、特に来期は仮に3,000~4,000万台と家庭用ゲーム機としては前例がない数量を作ったとしても売り切れると思われます。
仮に、PS5ハードが過去に前例がないほど売れるとすれば、様々な分野にインパクトを与えると思われます。まず、生産ラインが7ナノの先端ラインなので、TSMCの設備投資増加と7ナノの競争力強化に結び付くと思われます。
PS5は、約5万円で20万円前後かそれ以上の価格のゲーミングPCと同等の性能を持つため、ゲーミングPCの需要を圧迫する可能性があります。ゲーミングPCはグレードアップが必要になると思われますが、そのため、2021年か2022年にパソコン用CPUの5ナノ化が行われる可能性があります(AMDは2022年までに5ナノCPUを始めるとしています)。
これまでは、パソコン用CPUではインテル、GPUではエヌビディアが主流でしたが、PS5の評判が良好なら、AMDのパソコン市場における評価が上昇する可能性もあります。
また、PS5によって高度なグラフィックスがこれまで以上にゲームの世界と家庭に入り込むことになります。画像処理用パソコンの販売増加につながる可能性もあります。
このように、PS5は、ゲームの世界のみならず、映像、ホームエレクトロニクス、コンピューティングなど様々な世界にインパクトを与え、それが先端半導体の需要に刺激を与える可能性があります。生産、販売動向を注視したいと思います。
グラフ11 ソニーのゲームサイクル:プレイステーションの販売台数
8.半導体製造装置メーカー5社の業績予想と目標株価は変更しない
楽天証券でカバーしている半導体製造装置メーカー5社(東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、ディスコ、SCREENホールディングス)の業績予想と、今後6~12カ月間の目標株価は変更しません。5社とも引き続き投資妙味を感じます。
今後6~12カ月間の目標株価
東京エレクトロン 3万7,000円
アドバンテスト 8,000円
レーザーテック 1万3,000円
ディスコ 3万5,000円
SCREENホールディングス 6,500円
日本の半導体製造装置メーカー5社の業績表
表7 東京エレクトロンの業績
表8 アドバンテストの業績
表9 レーザーテックの業績
表10 ディスコの業績
表11 SCREENホールディングスの業績
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)、アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)
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