好材料・悪材料と株価

 近年、「株は悪材料こそが買い!」なのではないかとの思いを強くしている。語感が今一つだが、株式投資の新格言にしてもいいのではないか。

 直接的には、悪い材料があって株価が下がっているときこそが買い場だという程度の意味で、極端な意外性がある訳ではないのだが、心理的には実行しにくい。

 投資の世界では、「合理的だが心理的に抵抗がある行動」にはチャンスが伴うことが多いので、この概念は考えを深めてみる価値がありそうだ。

 一般論として株価は、好材料・悪材料のいずれをも将来の企業価値の予測に取り込み、さらにリスクを考慮した上で「リスク・プレミアム」も反映して形成されると考えられる。

 従って、好材料も悪材料も、それが正しく予測に反映されている場合、共にリスク・プレミアムが実現すると期待できるから、リスク・プレミアムが一定であれば、両者に期待されるリターンに差はないはずだ。その後のリターンの差は、もっぱら「新たに現れた情報」が「それまでの好材料/悪材料を含んだ情報」をどう更新するかによる。

 好ましいケースとしては、好材料の後にさらにプラスの変化がある場合もあれば、悪材料の後に「考えていたよりもましだ」と思える情報が生じる場合もある。

 原則として好材料後の株を買うのも、悪材料後の株を買うのも、有利不利は同じのはずだ。ある意味で、株は何でも気楽に買っていい。

 しかし、行動経済学のプロスペクト理論に現れるように、人間はプラスの材料とマイナスの材料に対して非対称的に反応する。悪材料に対する反応には、一つには予想が極端になりがちで後から修正される確率が高く、もう一つには悪材料を嫌う心理からリスク・プレミアムの拡大が予想できる。こうした想定が当てはまるケースが多いのであれば、「株は悪材料こそが買い!」が有効なセオリーになり得る。

 一方、悪材料と言ってもいくつかのパターンがある。以下、3つのタイプに場合分けして、悪材料下の投資について検討してみる。