古くて残念な常識(3) “フォルクスワーゲン問題でプラチナ価格下落”

“フォルクスワーゲン問題が発覚したから、プラチナ価格が下がる”という話があります。ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン社が違法な装置を使って不正に排ガステストを潜り抜けてきた問題(フォルクスワーゲン問題)が発覚して以降、ディーゼル車への信任が低下し、ディーゼル車の生産台数が激減するのではないか、との思惑が強まりました。同時に、ディーゼル車の排ガス浄化装置に用いられるプラチナの消費が激減する懸念が生じました。同問題が、プラチナ価格を大きく下落させる、という話です。

 コモディティ市場の環境が変わる2000年以前より、“欧州”、“ディーゼル車”、“プラチナ”というキーワードはワンセットでした。欧州はガソリン車が主流のアジアと異なりディーゼル車が主流で、そのディーゼル車の排ガス浄化装置にはプラチナが使われている、という定説めいたものがあったと聞きます。それゆえ、同問題発覚は、プラチナの消費が急激に減少するのではないか、という懸念を強めたわけです。

 実際のところ、プラチナ価格は、下落はしたものの一定水準で下げ止まり、現在もその水準を維持し、底堅く推移しています。また、欧州で自動車排ガス浄化装置向けに用いられるプラチナの量は、問題が発覚した2015年以降、微減程度です。前回のレポートで述べたとおり、欧州ではディーゼル車の生産台数は減少しているものの、環境規制の強化を背景に、自動車1台あたりに使われる触媒向けの貴金属の量が増えていることが(筆者推定)、主な要因とみられます。

 また、同問題が発覚した2015年以降も、米国の株価指数は、一時的な下落はあったにせよ、長期的には、史上最高値を更新し続けていたことから、消費の60%が産業用の用途であるプラチナにおいては、株価上昇→自動車生産台数増加期待→プラチナの触媒向け消費が一定程度確保される期待、という構図が生まれ、価格が下落しにくい環境だったと考えられます。

 また、プラチナ特有の状況として、同問題発覚後に下落した価格水準が、リーマン・ショック直後の記録的な安値水準とほぼ同等だったことも、問題発覚後も、価格が大きく下落しなかった要因とみられます。

 フォルクスワーゲン問題→プラチナ価格下落という「思い込み」は、今もなお、残っているとみられますが、実態としては、価格は底堅く推移し、欧州の排ガス浄化装置向け消費量も微減程度で済んでいます。